男を縛る“沽券”から解き放たれよ 「眞島秀和」演じる「カワイイもの」好きおじさんの魅力

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 男友達のSさん(50代)はカエルとパンダが大好きだ。ぬいぐるみを見ると、器用に操って幼児語でしゃべる。手や頭を微振動させて感情表現。とても上手なので、家でもやってるのだろう。また、知的で冷静な知人男性は、SNSのアイコンがピンクのラブリーなキャラつきの背景だ。私の夫も確かドナルドダックが好きだし、父も猫の顔の小銭入れを愛用していた。あれ? カワイイもの好きな男が意外と多いな、私の周りには。

 でもそれを公にできない男もいる。眞島秀和主演「おじさんはカワイイものがお好き。」の話だ。最初にちょっとだけくさしておこう。どことなく「おっさんずラブ」を目指した感がある。軽妙ポップなおじさんたちの胸キュンドラマってやつね。日テレのドラマは若年層狙い&ジャニーズ御用達が裏目に出て今夏惨敗。系列の読売テレビが送りこんだ刺客が、この「おじカワ」だ。眞島主演とくれば、応援しないわけにはいかぬ。贔屓の引き倒し原稿である。

 眞島が演じるのは、インテリア関連の企業に勤める43歳の小路三貴(みつたか)。名前もおじ。部下に優しく、仕事もできる、イケてるおじさんとして社内でも人望が厚い。しかもバツイチ独身でしゅっとしたルックス。そりゃモテるよねと思いきや、眞島が夢中なのはパグ犬キャラのパグ太郎。子供の頃から持っているぬいぐるみと一緒に寝るほどの溺愛ぶり。当然会話もする。家にはパグ太郎グッズがたんまり。

 しかし、大学生の甥っ子(藤原大祐)が同居することになり、家中にあふれていたパグ太郎をやむなく収納。ひょんなことから同じくカワイイもの好きなデザイナー・ケンタ(オシャレでいかつい今井翼)と知り合い、初めて同志ができる。さらに眞島に妙な敵対心を燃やすのが鳴戸(顔芸担当の桐山漣)。パグ太郎好きを隠す眞島にどんな試練が待ち受けるのか(そんな大層な話じゃないけれど)。

 独りのときはキャッキャしてパグ太郎を愛でる眞島だが、人前では冷静を装う。脳内はパグ太郎愛で大騒ぎなのに、つとめて真顔。そもそも眞島は今流行の顔芸タイプの俳優ではないし、派手な顔でもない。基本真顔で困惑や興奮や窮地を表現。その奥ゆかしさったら。

 第3話では元妻(山本未來)が登場。主語は自分で、依存や強要をしない女だった。こんな素敵な女に惚れられて、眞島の株は急上昇。考える速度の違いで離婚したが、互いに配慮と反省を伝える場面で、株はさらに爆上がり。こんな素敵なおじさんならば己を恥じることなかれ。最近の自治体や公官庁のように爆乳ロリコンアニメ好きなら白目剥くが、パグ太郎ならよくね?

 公にできないのは「男のくせに」「いい年して」と二重の呪縛があるから。女はこの手の性別と年齢と世間体の呪いに苦しんできたから、開き直ったら強い。徒党も組める。男はどうよ?

 秘密と嘘と恥はドラマに必須のうしろめたさ。でも、男の沽券を捨てたら楽になり、世界は広がるよという啓発なんだね。眞島の真顔にみる「男の沽券断捨離ドラマ」。さて結末はいかに。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年9月17日号掲載

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