「IWC脱退」「商業捕鯨再開」から1年 日本人はクジラを食べやすくなったのか

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IWC再加入しかない

――しかし、IWCや国際司法裁判所であそこまで追い込まれたら、この先、話も通じないだろう。脱退も仕方なかったのでは?

小松:確かに反捕鯨国のやり方には感心しないところも多い。しかし、日本にも責任はある。IWCで調査捕鯨の捕獲枠を認めさせたら、枠一杯まで獲らなければいけないんです。こちらが調査のために必要な数として、計画を策定したわけだから。私が計画の陣頭指揮を執って、935頭の上限枠(850頭プラスマイナス10%)を認めさせた05年度こそ、853頭を捕獲して目標に達した。しかし、この年の私が水産総合研究センターへ出向させられると、06年度は505頭、12年度は103頭にまで減った。確かに10年頃からはシーシェパードの調査捕鯨への妨害もあり、捕鯨もやりにくくはなったところもあるだろうが、捕獲枠に沿って捕鯨をしていれば、国際司法裁判所でも負けなかったはずだ。減らしすぎたから、オーストラリアから“日本は調査捕鯨などしていない”とツッコまれ、負けたんです。日本はオウンゴールを決めてしまったようなもの。結局、将来のビジョンもなく、IWCから逃げ出したんです。

――とはいえ、商業捕鯨は始まった。

小松:商業捕鯨って何だと思いますか? 商売としてクジラを捕ることでしょう。商売って言うからには、他人様に迷惑をかけず、独立して利益を生み出さなきゃいけない。それには消費者には大衆的な値段で提供されなきゃダメ。安くするには数がなきゃいけない。クジラの捕獲数を増やさなければ、安くなるわけがないし、物量がなければ流通だって壊れます。補助金で補ったところで、原料が届かなければ加工業者だってやっていけない。関連企業は倒産していくでしょう。現在、200海里以内の捕鯨や、南極海や北太平洋で行われている1頭も捕獲しない“目視”調査に、国は年間51億円もの予算を付けている。とても商業と呼べる状態ではありません。

――日本の領海と排他的経済水域だけで、捕獲数を増やすことは可能なのか。

小松:沿岸だけでクジラを捕ったところで増やせるわけがない。政治家も自分の地盤の沿岸捕クジラを守ることしか考えていないけど、クジラというのは大回遊資源ですから。

――では、日本が取るべき道は?

小松:IWC再加入です。もちろんただでは入らない。商業捕鯨のモラトリアムと南極海サンクチュアリに異議を申し立てて再加入するのです。日本は30年も異議申し立てを続けて無視されてきた。しかし、その不当を堂々と訴え、喧嘩しながら、IWC内で活動すれば良い。

――調査捕鯨の復活ですか?

小松:そうです。そりゃあ商業捕鯨復活のほうが耳障りは良いけど、実態のない商業捕鯨よりはマシでしょう。むしろ、これから調査捕鯨は重要視される。温暖化や海洋酸性化が進み、生態系も変わってきている。何よりクジラは多くの餌を食べるので、海の生態系に大きな影響力を持つ。日本でもサケやサンマ、イワシなどが毎年のように不漁になっているが、クジラはこれらも大量に消費する。クジラだけを可愛いから、頭が良いからと、食物連鎖の位置づけから外すのは、かえって生態系のバランスを崩すことにもなる。今こそ科学調査捕鯨が重要になる。新しい形の捕鯨をしていかねばならないのです。でも……。

――でも?

小松:今の政治家や官僚にはできないでしょうね。

週刊新潮WEB取材班

2020年8月24日掲載

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