風俗業界から引退した女性の告白…「ひととき詐欺」に遭った、違法行為への誘惑

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「もしもお金に困ったら、その時には」と…

 既に風俗店に勤務していた時代に貯めた貯金を取り崩し、子育てを考えると仕事を増やす訳にも行かず途方に暮れていた時であった。いつもなら客に自身の悩みを打ち明けることはなかったのに、自分が考えている以上に金銭で追い詰められていると感じた。

 娘はまだ小学1年生。風呂に入れている際にでも撮影すれば傷付くこともないのではないか。子供に不自由させたくないからこそ離婚後、風俗店で働いたのにその子供をわずかな金銭のために売るような真似をしていいのか。散々思案している時、自分の横で無邪気に着替える娘の姿を見て我に返った。もし子供の動画が流出してそれが周囲に見つかった場合、取り返しのつかないことになる。子供の将来が破壊されることは確実で、児童ポルノだけは手を出してはいけないと思い至った。

「お金は確かに欲しいけれど、そのお金はあくまで子供のため。子供を売るのは、やはり違うと思ったんです」(Bさん)

 常連客を通じて子供の動画の買い取りを打診した相手は大層落胆したそうだ。そして、謝礼金を微妙に積み上げた。8万円。今のところ断っているが、打診した相手からは「もしもお金に困ったら」と言われている。子供が将来傷付くことは絶対に避けなければならない。児童ポルノは論外として別の方法を模索するが、今のところ妙案は浮かんでいないという。

 収入の減少から将来への不安があるのは理解できる。しかし、彼女らの話には家族や福祉というものが一切登場しない。特に生活保護など福祉の情報は、インターネットで検索すればすぐ出てくる。取材した女性はともにスマートフォンを持っていた。情報を調べたらすぐ見つかると説明したが、彼女らは揃って「そういったものには頼りたくない」と拒絶。

 将来や子供の健全な成長を考えるのであれば、福祉に頼ることは選択肢にあってもよさそうなのに検討することさえ拒否しているようだった。

『稼げない』『金がない』というのは恥じるべきことに感じるようになります

 こうした風俗経験者の心情についてスカウトマンなどの関係者に訊ねたところ「自尊心の問題だろう」という答えが返ってきた。

 元風俗店の店長によると、彼女らはコロナ前は同年代の女性よりも高い所得があったことから稼ぎを重視する価値観になりやすいという。風俗業界に踏み込む動機がほぼ金銭なのだから、その業界に順応するためにも金銭に重きを置くというのはありうるのだろう。

「家族が助けてくれるような環境であれば誰も好き好んで風俗で働こうとは思わないでしょう。経済的に家族など近しい人を頼れないから働くわけです。そうして同年代の友人知人よりも多く稼ぐうちに、『稼げる自分には価値がある』と考えるようになり、『稼げない』『金がない』というのは恥じるべきことに感じるようになります。そういうタイプは間違っても福祉に頼ることはないでしょうね」(元店長)

 元店長の推測は上記2人の言動とある程度一致する。どちらも金銭がないことに恐怖心を抱いていた。その不安を解消しようと短慮としか思えない行為で金銭を得ようとして後悔している。福祉に関しても必要以上の拒否反応を示した。無論、全員に同じ傾向があるとは言わないが自身の売り上げによって毎日の収入が変動する業界にいれば、金銭に対する考え方はシビアになるのも当然かもしれない。

 都内のスカウトマンは「はじめのうちは働きやすい環境という言葉が女性からは出て来ますが、ある程度仕事に慣れてくると金銭面の話ばかりになりますね」と補足する。

 新型コロナによって図らずも仕事を失った彼女らが、数カ月でその価値観を変えることは難しい。

畑中雄也(はたなか・ゆうや)
1980年生まれ。出版社、新聞社勤務を経て現在は食品製造業を経営。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月3日掲載

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