米中対立激化で韓国「二股外交」の限界 国論分裂の先には「核武装」?

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年7月28日掲載

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ベトナムにもなめられた

――「米国側に付こう」とはっきりと主張したのですか?

鈴置:そこが興味深い点です。はっきりとは言わず、じっくり読んで初めて「米国回帰の勧め」と分かる仕掛けです。チョン・ジェホ教授は韓国の針路に関し、次のように語りました。

・韓国では国益が容易に貿易・投資・観光に還元される。それらが国益のすべてではない。国家の品格、評判のような「現金化(Monetised)」できない国益が存在する。なぜ、小さな国がますます韓国に喧嘩を売るようになったのか、考えることが重要だ。

「国益をカネに還元する」とは「商売になる中国に従う」との意味です。一方、「国家の品格」とは自由や民主主義を尊ぶ――米国とスクラムを組むことを指します。チョン・ジェホ教授は後者を忘れるな、と強調しているので結局、「米国側に立とう」と言っているわけです。

 ちなみに「小さな国から喧嘩を売られた」とは、新型肺炎の世界的な流行が始まった時、ベトナムが韓国からの入国を拒否したことを指すと思われます。韓国では「巨額の投資をして面倒を見てやっているベトナム風情になめられた」と騒ぎになりました。

 チョン・ジェホ教授は「ベトナムに怒る前に、中国に対抗する気概を持たない自らの姿を顧みよ」と訴えたかったのでしょう。韓国とは異なり、ベトナムは中国と戦うべき時は戦い、犠牲を払いながらも勝っています。

敢えて誤解を与える見出しに?

――「米国側に行く」とは大声で言わないのですね。

鈴置:そんな発言をした学者は中国から狙い撃ちされます。この記事の見出しが内容を誤解させるものなのも、そのためと思います。見出しはチョン・ジェホ教授の以下の発言部分からとっています。

・未だに政界と学会の一部には「米中の間で必ずどちらかを選ばねばならぬというものではない」との声を聞く。政治的な発言でもあろうが、いまや現実には通じない主張だ。個別の懸案に関する選択が毎回、不可避な状況になっている。

 ここから「懸案ごとに米国か中国か選択する」と見出しにとったのですが、見出しだけ読むと「二股外交の勧め」に思えます。でも、この発言は「どんなささいな問題でも、米中のどちらかを選ばざるを得なくなった」という趣旨であって「ケースごとに対応すればうまくいく」との含意はまったくありません。

――敢えて、誤解を招く見出しを付けた……。

鈴置:この基調講演から素直に見出しをとれば「米中二股はもう限界…このままでは米国の懲罰は不可避」あたりになります。でも、それだと「中国から離れて米国側に戻ろう」と言っているのと同じになってしまう。

 そこで、「二股外交を続けよう」と言っているかに見える、筋の悪い見出しをとったと思われます。中央日報は中国から「反中メディア」の烙印を押されたくはないのでしょう。もちろん、このシンポジウムに参加した学者だって「我々を裏切るのか」と中国から凄まれたくないでしょうし。

技術を持つ日本はいじめられない

――半導体の供給問題でも韓国は「米中板挟み」に陥っています。

鈴置:韓国の政府機関、対外経済政策研究院(KIEP)が6月24日、「先端技術を巡る米中間の覇権競争分析」(韓国語)という報告書を発表しました。

 結論部分を読むと、さりげなくですが「中国離れ」の主張となっています。「こうした状況下で我々は最近の中日関係から示唆を導ける」という項目を翻訳します。

・米中間の華為技術(ファーウェイ)の5Gネットワーク設備を巡る葛藤が発生した時、日本はどんな国よりも早く米国側に加わった。にもかかわらず、中国は特に報復措置もとらなかったし、日本の産業界も中日関係はいつよりもよいと評価している。
・中国は、先端産業の技術開発のためには日本の素材、部品、設備が必須不可欠と考えており、日本との関係を維持していると思われる。

 政府の報告書だけあって「中国離れ」とはどこにも書いていません。しかし、7月11日にこれを報じた中央日報は韓国語版日本語版も「先端技術で中国と関係を断つべき…米国の要求に対応策は一つ」との見出しで報じました。本文でも日本の事例を挙げ、素材などで先端技術を持てば中国からいじめられない、と主張しました。

・二者択一をすべきという米中の圧力は強まるだろう。KIEPは「技術が解決策」とみる。米中対立の本質が技術覇権であるだけに、韓国が両国よりも進んだ技術を保有すれば口を出しにくいということだ。

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