「富士山」のマグマに異変が 専門家が警鐘「いつ噴火してもおかしくない」

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「火山灰200年分」

 そこで重要なのが、火山を常時監視する観測所の存在だ。マグマが火口に近づくと、山体が膨張して地殻変動が生じ、地磁気が乱れる。また地表に噴き出る火山ガスを測定すればマグマの状態が分かり、噴火の予兆を捉えられる場合もあると、長尾氏が続ける。

「富士山は5合目より上に観測所はありません。それより下には、東大地震研や国土地理院の観測所が複数あって、地震や地殻変動を監視しており、そこだけでも噴火の前兆を捉えることは可能ですが、より精度を高めるためには山頂での計測が重要なのです。富士山と構造の似た三宅島や伊豆大島では、頂上付近で地磁気等も測定しています」

 いったいどうして富士山では山頂が放置されてしまっているのか。

 実は8合目から頂上までは、富士山本宮浅間(せんげん)大社の土地となっているため、自由に観測所を設けることができない事情があった。

「山頂には、気象庁の旧測候所の建物がありますが、国がきちんと予算をつけてくれれば維持できる。そうした要望をある国会議員にも伝えましたが、“次の選挙までに成果が出ないと難しい”と門前払いされてしまった。自然科学では、少なくとも10年か20年は研究を続けないといけない。地震と同様、すぐに成果が出ない火山研究にはお金が下りにくいのです」(同)

 そこで長尾氏が理事を務めるNPO「富士山測候所を活用する会」は、気象庁が管理する山頂の施設を借り受け、観測を行うことにした。今夏にも地磁気の測定を始める予定だったが、コロナ禍の影響で登山禁止となり来年以降に延期。活動の存続が危機に立ち、クラウドファンディングで資金を募っている。

「火山というのはひとつひとつの山で特徴が大きく異なり、いわばホームドクターのような研究者が、計測したデータをつぶさに見る必要があるのです。北海道の有珠山(うすざん)で00年に起こった噴火では、発生前に住民避難が完了して被害を最小限に止めることができました。これは北海道大学の岡田弘教授(当時)らが、有珠山に常駐して研究を続けてきた成果。御嶽山の噴火でも前兆はあったのですが、無人の観測データだけでは、予測に活かすことは難しいのです」(同)

 さらに悩ましいのは、次の富士山噴火が、山頂にある火口からとは限らないことだと、先の藤井氏が言う。

「前回の宝永大噴火では、山頂ではなく5合目付近が噴火口で、最大の噴火と呼ばれる864年の貞観(じょうがん)の大噴火は2合目あたり。過去2300年間の噴火は60回以上で、全て山頂以外に火口を作って噴火したので、今後も山頂以外の場所から噴火する可能性は高い。最悪の場合、噴火の数時間前の兆候からしか判明しないと思います」

 相手は46億年も前から地球で気を吐くマグマである。人間が最先端の科学を駆使しても、正確な予測は難しい。だが、最悪でも数時間前には警報を鳴らせるということか。

 先の鎌田氏が断じる。

「富士山がいつ噴火してもおかしくない状態であるのは確かでも、時期を正確に予測するのは不可能です。世の中には、気象庁が公表するデータを処理し、何月何日に噴火と予測する数字も出回っていますが、これは科学的根拠が全くない。ただの希望的予言です」

週刊新潮 2020年7月16日号掲載

特集「こんな時に『富士山』が危ない!?」より

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