米中全面対決で朝鮮半島は「コップの中の嵐」に転落 日本の立場は

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受難のマッカーサー像

――米韓同盟解体をどれくらいの韓国人が賛成するのでしょうか。

鈴置:左派にとって米国との同盟こそが諸悪の根源です。北の同胞との和解を阻害するうえ、米国が韓国を支配するための道具――との認識です。

 文在寅大統領も自伝『文在寅の運命』で「弱い民族を分断して世界を支配する米帝国主義」への反感を露わにしています(『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

――保守派や普通の人は?

鈴置:彼らは米韓同盟を支持しています。そこで、左派はタイミングを見計らっては国民の反米感情を揺り起こし、米韓同盟の廃棄を訴えるのです。

 7月1日、左派は仁川(インチョン)のマッカーサー将軍の銅像の前で「米軍は出て行け」と主張する集会を開きました。左派が銅像前で集会を開くのは反米感情を煽る時です。

 親米保守にとって、マッカーサーは仁川上陸作戦を敢行し、韓国を共産化から救ってくれた恩人。しかし左派にとっては南北の統一を阻害した張本人なのです。この銅像は時々、火あぶりにされたりします。

ついに登場、同盟廃棄論

 左派系紙、ハンギョレはさらに踏み込んで米韓同盟廃棄論を載せました。米国の外交政策フォーカス所長のフェッファー(John Feffer)氏の寄稿「韓米同盟を見直す時期だ」(6月29日、日本語版)です。

「11月の米大統領選挙で民主党のバイデン(Joe Biden Jr.)候補が勝つが、次期政権も北朝鮮に対しては軍事的な威嚇政策をとる」と予想したうえ、韓国の進むべき道を以下のように示したのです。

・このドラマの中で、受動的な俳優としての韓国の役割は変わらないのだ。 ならば、韓国は独立性を主張し、自分の運命の主になるべき時かもしれない。これは何よりも米国との軍事同盟の見直しを必要とする。軍事的観点からして、韓国は米軍の駐留を必要としない。
・朝鮮戦争勃発から70周年を迎えた。分断を克服するためには、究極的に韓米関係を変えなければならない。その関係を変える過程において、韓国が主導権を握ってこそ、地政学の中でも資格を備えた行為者になれる。

 民族内部の対立を克服するには米韓同盟を廃棄するしかない――。この主張は韓国の左派が長らく唱えてきたことです。ただ、左派がそう主張すれば、保守や中道から反発を招いて逆効果になりかねない。そこでハンギョレは米国人の口を借りたのでしょう。

 寄稿にしろ、ここまではっきりと同盟廃棄をハンギョレが訴えたのはニュースです。この記事の韓国語版に「ついにハンギョレが本性を露わした」とのコメントを書き込んだ読者がいました。

「米国は韓日併合と韓半島分断の元凶である」「文在寅政権は正気に戻って米国の植民地から独立して欲しい」といった記事に賛成する書き込みもありましたが。

「属国扱い」相次ぐ

――やはり今が「反米」の煽り時ですか?

鈴置:左派はそう判断していると思います。韓国の反米感情は「国の在り方まで米国に指図される。属国扱いだ」との悔しさから生まれます。そして最近、米国の「属国扱い」が相次いでいます。箇条書きにすると以下です。

(1) 在韓米軍の駐留経費の分担額を9億ドルから50億ドルに引き上げるよう、一方的に要求した。
(2) 非核化を目指す米朝交渉から韓国を排除した。
(3) 韓国最大の貿易相手国である中国の包囲網に加わるよう要求した。

 反米感情を煽る材料がずらりと揃いました。先に引用した「韓米同盟を見直す時期だ」もこれらを列挙したうえ、韓国に「米国から独立せよ」とささやいています。驚くほどに、韓国人の心情を読み切った記事なのです。

 筆者はあまり有名な人ではありませんが、米韓同盟を憎むハンギョレにとっては便利極まりない存在です。

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