米中全面対決で朝鮮半島は「コップの中の嵐」に転落 日本の立場は

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年7月7日掲載

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 米中が全面対決する。南北朝鮮の争いは、もはや「コップの中の嵐」に過ぎない――と韓国観察者の鈴置高史氏は断ずる。

親北人士を集中起用

鈴置:韓国が北朝鮮に卑屈なほどすり寄っています。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は7月3日、情報機関である国家情報院(国情院)の院長に朴智元(パク・チウォン)前国会議員を指名しました。

 金大中(キム・デジュン)元大統領の懐刀だった人です。金大中政権時には青瓦台(大統領府)秘書室長を務め、2000年の史上初の南北首脳会談では密使を務めました。北朝鮮とのパイプを買われての起用です。

 なお、金大中政権は南北首脳会談実現のため北朝鮮に5億ドルを送ったことが後に発覚、有罪判決を受けた朴智元氏は1年あまり収監されました。

 統一部長官の候補には与党「共に民主党」の李仁栄(イ・イニョン)前院内代表を充てました。学生運動出身で北朝鮮と近い、全国大学生代表者協議会(全大協)の初代委員長です。

 青瓦台の国家安保室長には徐薫(ソ・フン)国情院院長が回りました。情報機関の生え抜きで、北朝鮮との交渉窓口を長らく担当した人です。

 2018年3月の韓国の「米朝仲介」の際には訪朝して金正恩(キム・ジョンウン)委員長と会い、返す刀でワシントンを訪れてトランプ(Donald Trump)大統領と面談しました。

 文在寅政権スタート時に青瓦台秘書室長の要職を務めた任鍾晰(イム・ジョンソク)氏は、大統領外交安保特別補佐官として青瓦台に戻りした。

 全大協の3代目委員長で、1989年に北朝鮮で開かれた世界青年学生祭典に代表者を送ったため3年間半、服役しています。対北特使を想定しての人事と言われています。

踏まれてもついていく下駄の雪

――北朝鮮シフトですね。

鈴置:一部は予想していたものの「これほど露骨な人事をするとは」と韓国メディアも驚いています。文在寅政権は北朝鮮から罵倒され、ついには開城(ケソン)工業団地の南北共同連絡事務所まで爆破されてしまった。

 それでも、この政権は北朝鮮がいつかは対話に応じてくれると信じて北に近い人を集める。永田町で言う「踏まれても、蹴られても、ついていきます下駄の雪」状態です。

 人事だけではありません。6月30日、文在寅大統領はEU首脳との電話協議で「米大統領選挙の前に朝米対話が推進される必要がある」と述べました。今年11月までに米朝首脳会談が実現するよう、自分が仕切る、と宣言したのです。

 もっとも、直ちに北朝鮮に袖にされました。北朝鮮の対外宣伝メディア「わが民族同士」(日本語版)によると、崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官は7月4日、談話を発表しました。

 日本語におかしなところがありますが、談話の一部をそのまま引用します。このところ、北朝鮮媒体の日本語力は落ちる一方です。

・われわれの記憶からさえもかすかに忘れかけていた「朝米首脳会談」という言葉が、数日前から話題に上がって国際社会の耳目を集中させている。
・当事者のわれわれがどう考えるかについては全く意識せず、早まって仲裁の意思を表明する人がいるかとすれば、米大統領選の前に朝米首脳会談を行わなければならない必要性について米執権層が共感しているという声も聞こえる。
・朝米対話を自分らの政治的危機を処理するための道具としか見なさない米国とは対座する必要がない。

韓国は出しゃばるな

――「早まって仲裁の意思を表明する人」とまで、文在寅氏を馬鹿にしました。

鈴置:「我々は米国とのパイプを持っている。韓国は出しゃばるな」と揶揄したのです。ただ、文在寅政権はめげないでしょう。自分たちの存在意義は北朝鮮との関係改善にあると考えている。「下駄の雪」のように、どんなに踏まれてもついていくしかないのです。

 左派は必死です。北朝鮮の歓心を買うため、与党「共に民主党」は在韓米軍撤収を語り始めました。外交統一委員長の宋永吉(ソン・ヨンギル)議員が7月1日、国会で開かれた懇談会で「在韓米軍はオーバーキャパ(over capacity)ではないか」――つまり、「多すぎ」と主張したのです。

 北朝鮮は米韓同盟の解体を狙っています。その一里塚が在韓米軍削減・撤収です。「我々は核を持った。米軍さえ追い出せば南は完全に言うことを聞くようになる」と踏んでいるのです。米軍が駐留する今でさえ、韓国は北朝鮮の顔色をこれだけ見るのですから。

 先に引用した「わが民族同士」(日本語版)の記事も、米国との首脳会談に応じない理由について、以下のように指摘しています。

・すでに遂げられた首脳会談の合意も眼中になく、対朝鮮敵視政策にしつこく執着している米国と果たして対話や取り引きが成立するだろうか。
・われわれと枠組みを新しくつくる勇断を下す意志もない米国がどんな小細工を持ってわれわれに接近するかということは、あえて会わなくても明白である。

 北朝鮮にすれば「約束した米韓同盟解体はおくびにも出さない半面、核兵器の廃棄ばかり要求して制裁を一切、緩めない米国」はとても信用できない、ということです。

 2018年6月の初の首脳会談で、米朝は「朝鮮半島の非核化」との文言により、北朝鮮の核兵器廃棄と米韓同盟の廃棄の交換を約束しました。『米韓同盟消滅』の第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」で詳述しています。

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