【追悼】ジョージ秋山さん 「小沢一郎」「美保 純」ら語る『浮浪雲』の魅力

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 創作の源はひとつ屋根の下に暮らす我が家族だから、描く話題は尽きない――。

 かつて、雑誌のインタビューでそう話していたジョージ秋山さんは、確かに亡くなる約3年前まで代表作『浮浪雲(はぐれぐも)』の執筆を続けた。

 物語の舞台は幕末の江戸という設定でありながら、主人公「雲(くも)」の家族を巡る庶民の人間模様は、現代に生きる多くの読者の心を捉えて離さなかったという。

 ここに紹介する著名人たちもまた、その中の一人。作品から人生を学んだという彼らが、漫画界のレジェンドに贈る弔辞に代えて、その魅力を思う存分に語ってくれた。

男と女の業を感じる大人の「勉強漫画」 衆議院議員 小沢一郎

 普段、私は歴史書や歴史小説を読むことが多く、漫画を読む機会はほとんどないけれど、『浮浪雲』だけは特別です。読み始めてもう30年。たまたま手にとった雑誌の連載を読んだのをきっかけに、一気にのめり込んだわけだけど、それからは掲載号を毎号欠かさず読み、単行本も全巻自宅に揃えた。

 2008年には『選・小沢一郎 あちきの浮浪雲傑作十選』(小学館)という書籍も出版させて貰い、特に好きな話を10本選んだりもしました。本当に全話、全てのエピソードが良いから、選ぶのに凄く悩んだ記憶があるなぁ。

 戦後まもない頃、子供の学習の足しになるよういろいろな教訓や逸話が載った「勉強漫画」というジャンルがあってね。小学生の頃の僕は、『のらくろ上等兵』などと一緒にそれを読んだものですが、『浮浪雲』はまさに大人の「勉強漫画」だと思う。

 教育や老人問題に始まり、夫婦関係から子育てのことまで、今の世に通じる話題をたくさん扱っているから読む度に学びがある。こう考えればいいのか、という気づきがあるんだな。

 一方で、やはり大人向けの作品だから、世の常である男女の秘め事、色っぽいシーンも出てくるので子供にはちょっと早い(笑)。それも上っ面をなぞるだけじゃなく、男と女の業を感じさせるような、本当に深い描写がある。そこがこの作品の大きな魅力だね。

 主人公の「雲」は、普段はふらふらと遊び歩いて、いつも陽気に「お姉ちゃん、あちきと遊ばない?」なんて道行く女性に声をかけるけど、時々みんなの役に立ったりする。彼のように達観して、悠々自適に暮らせたらいいなと思う。俗人からすれば、なかなか現実はそう簡単にはいかんけどね。

 ジョージ秋山さんが、ご自身をモデルにして作品を描いたのだとすれば、きっといいご家庭をお持ちだったんだろうね。それくらい良き家庭の姿が描かれている。特に主人公の奥さん・カメさんが素晴らしい。細かいことはゴチャゴチャ言わず、どんな時でも「あっはっは」とあっけらかんと笑っていて。亭主も「カメさん、カメさん」と一緒に笑いつつも浮気しちゃう。(単行本のページをめくりながら)ふふふ、本当に面白い。笑って共感、感心しながらさまざまな人生を学べる。そういうところが大人の「勉強漫画」なんです。大人が我が身を振り返り、反省しながら読める漫画です。

 今の若者は、もしかしたらこういう漫画を面白くないと言うかもしれない。そう思うのは、たぶん漫画を読んで「考える」ということをしていないからじゃないかな。考えることもせず、表面だけを捉えて「つまらん」で終わってしまってはもったいない。私は若い頃から何度も読み考え、人生の役に立ってきたからね。

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