山田吉彦(東海大学海洋学部教授)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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海の攻防

佐藤 最近の外務省の大きな問題は国際法に弱くなっていることです。外務省の総合職の採用試験が、外交官試験から普通の国家公務員試験に統合されてしまったためです。1980年代は、外務省の上級職員試験も専門職員試験も、必ず1題は海洋法でした。だからそれがなくなった今の40代前半以下はそこが弱い。そのせいか、今回、外務省がもう少しやれる局面があったと思うのですが、ほとんど前に出てきませんでした。

山田 おっしゃる通りで、国際的な問題ですから、本来なら外務省がコントロールしてしかるべき案件でした。でも結局のところ、取り仕切っているのが厚労省なのか、官邸なのか、よくわからないまま動いていった。

佐藤 そこも大きな問題です。

山田 ここ数年、クルーズ船は大ブームでした。インバウンド需要を当て込み、各地の港が寄港を誘致した。その結果、全国で年間3千回近くの寄港があり、約250万人が上陸しています。いきなり増えてしまったので、どこの港の入管も税関も対応できていない状態でした。

佐藤 それを見透かして、諜報機関員とか麻薬の密売組織なども、クルーズ船を利用することがあります。

山田 そうですね。船は飛行機に比べて出入国に非常に曖昧なところがありますから、密航とか覚醒剤の運搬に使われることも多い。

佐藤 そういえば、山田さんは海上保安庁が沈めた北朝鮮の不審船を一般公開したときの担当者でしたね。

山田 私が日本財団に勤務していた時のことです。銃撃戦の末に沈没した不審船を引き上げ、東京の「船の科学館」で展示しました。北朝鮮工作員の犯罪の証拠ですが、被疑者死亡で不起訴になり、本来なら廃棄処分となるものです。それを財団の曽野綾子会長と笹川陽平理事長(いずれも当時)が国民に見ていただきたいと、展示に踏み切った。

佐藤 あれで国民の北朝鮮に対する意識が格段に高まったと思います。

山田 結局、163万人の方に見ていただきました。やはり何でも国民にきちんと実態を伝えなければいけません。そうでないといつまでも他人事になってしまう。あの展示によって初めてすべての国民が、北朝鮮との間には拉致問題があることを実感できたのではないかと思います。

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