【コロナ禍】なぜ毎日「感染者数」だけを報じるのか マスコミが「退院者数」をスルーする事情

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東京五輪との関係は?

 ならば、他の自治体はどうか、大阪府のケースを見てみよう。府の公式サイトから広報資料を見てみると、都の内容とはかなり違っていることが分かる。

 例えば4月16日に発表された資料の冒頭に記されているのは、《1 患者の発生状況》で、これはクラスター感染の一覧だ。

 この表の《累計》には、《ライブ参加者》が48人、《京都産業大学の関係者》が8人とある(《本日判明》は、どちらも0人)。一方、《本日判明》で最も多かったのは《感染経路不明》で32人と記されている(《累計》では645人)。

 そして本題の退院者だが、こちらは都よりも丁寧に説明されている。

 全てを引用させていただくと、《本日の状況》の人数は、《退院・解除》が184人。《死亡》が8人。《入院及び入院等調整中》が765人で、そのうち《重症》が59人。《自宅療養》が41人で、《宿泊療養》が22人となっている。

 この広報資料を使えば、例えば、大阪府のこれまでの感染者1020人のうち、亡くなられた方の割合は約0・7%だと分かる。

 重症者の割合は約5・7%で、そして退院率は約18・0%。患者の大半は入院しており、その割合は約75・0%と高い。とはいえ、退院確率は死亡確率の約25・7倍という数字も計算できるのだ。

 なぜ大手マスコミは退院者の数を報じないのか、まずは関係者に話を聞いた。

「テレビ局は毎日、都の発表に基づき、ニュースなどで感染者数の棒グラフを放送しています。基本は右肩上がりで棒が高くなり、感染経路不明者の数を強調することもあります。ところが、退院者の数で同じものを作ろうとしても、都や府の広報資料では無理なのです。どちらも退院者数の項目は途中から広報資料に加わったので、初めての退院者から現在までの数をグラフ化することができません」

 次に都を取材すると、「都庁記者クラブをはじめとするマスコミの方々から、『最初の退院者から現在まで、日ごとの数を出してほしい』という要望をいただいているのは事実です」と言う。

「マスコミの方から『毎日、感染者の数だけを報道していると、まるで不治の病であるかのような、間違ったイメージが流布する危険性が高まってしまう』と指摘されたこともありました。まずは広報しながら、メディアなどの指摘で広報内容を見直してきたという経緯もあります。最初から現在までの退院者数を広報できるよう、準備を進めておりますが、現場は多忙を極めています。誠に申し訳ありませんが、あと少し、お時間をいただけたらと思います」

 メディア側の判断も、都の説明も、理にかなっている。だが、専門家は大きな問題があるという。

 医学博士で西武学園医学技術専門学校東京池袋校の校長を務める中原英臣氏は、「行政の怠惰を疑われても仕方ないレベルです」と手厳しい。

「退院者の数は、正確な数字を最初から広報する必要があったと思います。都民は安心感を得るでしょうし、医療や行政の関係者は退院者数の推移を見ながら、医療崩壊が発生しないか今後の方針を探ります。基本中の基本データですから、マスコミからの問い合わせがあれば、すぐに出せる状態でなければおかしいのです。まして治癒して退院した患者さんの数と、入院中に亡くなった患者さんの数が合わさって発表されていた時期があったというだけでも、私たちの常識からはあまりにも外れています」

待ち望まれる“棒グラフ”

 別の医療関係者も、懐疑的な見方を示す。

「そもそも患者数の発表に関してさえ、東京都の姿勢を疑問視する声もあるほどです。国際オリンピック委員会(IOC)に気を使い、感染者をわざと少なく発表したのではないかという疑念は、少なくとも医療関係者の一部では根強いものがあります」

 まさかそんなことはないだろうが、いずれにせよ都は1日も早く、退院者数の正確な数字を広報すべきだろう。

 朝日新聞やブルームバーグなど、一部のメディアが退院者に言及するようになっているのは事実だ。しかし、「退院者数の推移を示す棒グラフを、都が公式に発表した資料から作成する」ことが不可能な現状は変わっていない。

週刊新潮WEB取材班

2020年4月24日掲載

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