「経済の9割を止めてもコロナ対策を」は正論か

国内 社会 2020年4月22日掲載

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 新型コロナウイルス禍に関連して、「命か経済か」という古くからある問題がまたクローズアップされてきた。

 過去に例を見ない「自粛」によって、数多くの企業や自営業者らが経済的に苦しい立場に追い込まれており、世界規模で見た場合には大恐慌を超える状況だとも伝えられている。このような状態が続けば、経済は壊滅的なダメージを受けることは間違いない。すでに受けているとすら言える。

 一方で「人命よりも大切なものはない。経済云々はそのあとだ」という声は大きい。政府と東京都を見た場合には、どちらかといえば両方のバランスを取ろうとしているのが前者で、「命ファースト」を強く主張しているのが後者(都知事)である。

 直近では、「ひるおび!」(TBS系)でのジャーナリスト、大谷昭宏氏の発言が波紋を呼んだ。大谷氏は、

「9割の経済を止めたっていいじゃないですか。人の命を守って、そこから先に経済を立て直すという事は出来るわけですよ。命を亡くしちゃったら、経済の立て直しなんてありえないわけです」

 と「とにかく命ファースト」と強く主張したのだ。小池都知事にとっては心強い援軍かもしれない。

 しかし、よく知られているように、「命と経済」は二者択一の問題ではない。むしろ切っても切れない関係にある、というのが常識だろう。

 いくつか、過去の事例を見てみよう。

 2016年、カナダで17歳の少年が銃を乱射し、教師ら4人を殺害したという事件が起きた。事件が起きた町は先住民が人口に占める割合が高く、失業率は20%という高さ。地域住民の自殺率は州で最も高かった。貧困や失業苦が犯罪や自殺の背景にあるのでは、というのが現地の見方である(時事通信・2016年1月26日)

 2010年に財政危機に陥ったギリシャの自殺率を見てみよう。2010年には男女平均で3.3だった(10万人あたりの自殺者。男性は6.0で女性は0.7)。それが2015年には4.8(男性7.8、女性1.9)となり、2016年には5.0(男性8.1、女性2.0)となっている。失業率が高く、また経済的に困窮した年金生活者が自殺に追い込まれるケースも多いようだ。

 こうした傾向は世界各国で見られており、もちろん、日本も同様である。

 ニッポン放送のアナウンサー、飯田浩司氏は著書『「反権力」は正義ですか』の中で、

「経済は人命を左右する」という章を設け、自殺者数と失業率の関係を例にしながら解説している(以下、引用は同書より)。

 下は総務省、警察庁発表をもとに飯田氏が作成したグラフだ。

「このグラフは完全失業率の推移と『経済・生活問題』を原因とする自殺者数の推移を重ね合わせたものです。多少のタイムラグはありますが、完全失業率(年平均)と『経済・生活問題』を原因とする自殺者数の推移がほぼリンクしているということが表れています。つまり、失業率が上がると、自殺者数が増加する。逆に、失業率が下がると自殺者数も減少するということがわかりますね。両変数の差分を計算した相関係数(1に近づくほど正の相関性が高い)は0.74.やはりかなりの連動があることがわかります。

 グラフを見ると、1990年からの28年間で過去2度大きな山を迎えています。2003年と、09年。03年はITバブル崩壊後の不景気、09年は言わずと知れたリーマンショック後の不景気です」

 すでに企業の倒産、就職の取り消しといった事例が多く報告されている。そこから立ち直れない人は一定数生じてしまう。「命は大事。経済も大事」と考えなければ、結局は多数の命を失うことになるかもしれない。「経済的に追い込まれて自殺するのは全部自己責任」などという考え方は許されるものではないだろう。

 大谷氏の言う「9割の経済を止めても立ち直れる」という断言がどのようなシミュレーションに基づいているかは不明である。誰もが望むのは「命も経済も」救われるということのはずだが……。

デイリー新潮編集部