森岡毅(刀 代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

佐藤優 佐藤優の頂上対決 ビジネス 週刊新潮 2020年4月16日号掲載

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頭の中のサイコロ

森岡 私はもともと理系で、数学は得意でしたが、感覚的な分野が劣っていて、ファジー(曖昧)な国語が非常に苦手だったんです。だから何事もロジカルにしないと咀嚼できなかった。そのため、マーケティングについても、20代のころから自分で数学的に体系化する訓練をしてきました。マーケティングは何でも数式にできるんですよ。

佐藤 感覚的な部分もですか。

森岡 私は、人が物事を選択するときの脳の中の構造は、何についても同じではないかと思っています。コンビニで水を選ぶのも、どの子が好きなのか選ぶのも、脳の中では同じことが起きている。

佐藤 なるほど。

森岡 例えてみれば、頭の中に10面体のサイコロがあって、5面がディズニーランド、2面がUSJ、残り3面には他の地域のテーマパークと書いてある。どこかテーマパークに行こうと思った人は、それを頭の中で振る。すると、半分はディズニーが出るわけですね。人が何かを選ぶにあたって何度もサイコロを振ると、一定の結果が出てきます。その出目の回数に加重平均をかけた社会のまとまりが市場シェアになります。

佐藤 その選択が数式で表せるのですね。

森岡 選んだ行動を統計学確率論的に計算すると、一つの数式で説明がつきます。それは「負の二項分布の数式」と呼ばれるものです。

佐藤 大学数学のレベルになりますね。

森岡 ええ、これは私の中でも大きな発見でした。この数式自体は数学好きな人だけにわかればいいのですが、要は、人間は意識的にも無意識的にも、いくつかのオプションの中から、「怠惰な脳」が何かを選ばせているということなんです。

佐藤 怠惰な脳、ですか。お話をうかがって非常に近いなと思うのは、ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンが言っている「複雑性の削減システム」ですね。彼は信頼というものが複雑性の削減システムだと明らかにしたわけですが、そこにつながる指摘だと思います。

森岡 ああ、怠惰というのは、それと同じことですね。

佐藤 サイコロを振って確率に委ねてしまうのは、複雑性を削減することですね。それは聖書にも出てきます。ユダが裏切り者としていなくなると、十二弟子の席が一つ空く。そこで誰かを選ばなくてはなりません。でも議論が錯綜してしまって選べないんです。そこで最後はくじ引きをする。

森岡 ほう、面白いですね。

佐藤 くじには、神の意思が働いていると考えるわけですが、要するに、確率に委ねる。

森岡 私は、神様の正体は確率だと思っています。言い換えると、偶然性ですね。偶然性はある程度まで影響力を行使できますが、一回一回に何が出るかは誰にもわからない。

佐藤 カジノのルーレットで黒が3回出たから次は赤かなと期待している人がいますが、一回一回の確率は同じですよね。

森岡 現代人の生活を考えると、頭の中に日々ものすごく多くの情報が入ってくる。それがサイコロに大きな影響を及ぼします。いま、どうしてここまでコロナウイルスに過度に反応してしまうかというと、要は一日にコロナという文字にあたる回数がすごく増えているからです。

佐藤 その通りですね。感染力と死者数で見るのだったら、季節性インフルエンザの方が怖い。2018年のインフルエンザによる国内の死者は3325人なんですよ。

森岡 それは肺炎を入れていない数字ですよね。

佐藤 ええ。死因がインフルエンザの数です。合併症は含まれていません。昨年はもっとインフルエンザが流行って、9月時点で死者3千人を超えていました。でも今年は、感染者数自体が大きく減っている。3月時点で昨年の4割ほど減だという報道がありました。一方、これだけ騒がれてもコロナウイルスの死者は100人にも満たない。

森岡 その通りですね。

佐藤 だから病気の怖さから言ったら危機ではないけれど、国民心理、国際的な動向、さらには経済に与える影響を総合していくと、非常に大きな危機になってくる。そこはまさに、コロナウイルスという言葉がどのくらい流通しているかにかかっていると言えるでしょうね。

森岡 それがものすごく脳のサイコロに影響を与えています。新聞の朝刊を読んで、テレビを見て、夕刊を読んで、テレビを見て、さらにその間には何度もネットを見ている。もう一日に何百発もコロナをくらうわけです。そうするとサイコロの目がコロナになる確率がどんどん上がる。その結果、コロナが持つ実力以上にダメージを受けてしまう。

佐藤 ネットの発達によって、そういう社会構造になってしまった。

森岡 今回よくわかったのは、人間は自分の意識下で自身の選択をコントロールしていると思っても、奥底にあるのは根源的な欲求というか、生存とか恐れに根ざした動物的な部分だということですね。

佐藤 我々の脳の仕組みは、人類の祖先がアフリカのサバンナを駆けていたときに出来上がったものです。動物行動学者の竹内久美子さんが、人がハンサムとか美人を好むのは、感染症等に罹っている可能性が低いからだと言っています。つまりパートナーには顔の形が左右対称で、かつ皮膚にデキモノがない人がいいということなんですね。

森岡 見るからにわかる。

佐藤 その時代から人間はそんなに変わっていないわけです。

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