森岡毅(刀 代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

ビジネス 週刊新潮 2020年4月16日号掲載

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 高い技術力と勤勉な国民性で「モノづくり大国」となった日本。だがいま、その成功体験が企業をミスリードし、経済成長を停滞させている。画期的な技術革新が起きにくい時代に、成功の鍵となるのは何か。USJをV字回復させたマーケターが説く「マーケティング日本再興論」。

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佐藤 森岡さんはマーケターとして招かれたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で、「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」を開業するなど、矢継ぎ早に革新的な企画を立て、わずか4年足らずで業績をV字回復させました。その仕事ぶりには、かねてから注目していました。

森岡 ありがとうございます。

佐藤 USJを離れ独立された後も、讃岐うどんチェーンの「丸亀製麺」のブランディングや、兵庫の野外テーマパーク「ネスタリゾート神戸」(旧グリーンピア三木)の再生など、目覚ましい活躍をされています。

森岡 市場における価値を創造するのがマーケティングです。私はその手法で、この世の中の問題はかなりのところまで解決できると思っています。日本にはマーケティングという言葉はあるのですが、その本質の部分が理解されていないんですね。

佐藤 ただ市場調査して、商品の売り方を探すことだけがマーケティングと思われている。

森岡 ええ。売るところから始まる狭義のマーケティングしかない。日本の会社では、マーケティング部門と商品開発部門が離れていることが多いのですが、本来ならマーケティングと商品開発は一体化していなければいけません。

佐藤 企画段階から売れるものを作っていくということですね。

森岡 そうです。ただ日本の企業、特に製造業では、マーケティングが芽生えない構造になっているという問題点があります。

佐藤 それはどこに原因があるのですか。

森岡 これまで日本が技術志向のモノづくり大国だったからです。高い技術力があり、それを背景に画期的な新製品を出してきた歴史がある。

佐藤 ソニーのウォークマンなどですね。

森岡 はい。でもいま製造業で、世の中を驚かせるような技術革新は、そうは起きません。つまり画期的な製品が生まれにくくなっている。それにもかかわらず日本の製造業は、技術力偏重で消費者を無視したような、方向性を間違えたこだわりを持ったままです。日本は「作れば売れる呪い」にかかっているんです。

佐藤 だから製造業は凋落した。

森岡 そうです。いまこそ、マーケティングの重要性がきちんと認識されるべきだと思います。

佐藤 モノづくり中心の発想は非常に根強いものがあると思いますが、森岡さんがそこに囚われないのは、やはり外資にいらしたからですか。

森岡 私は大学を卒業して、日用消費財メーカーのP&G(プロクター&ギャンブル)に入社しました。国内ではヴィダルサスーンやウエラを、アメリカではパンテーンというブランドを手掛けてきました。こうした世界は、そこに数々の特許技術があるとはいえ、基本的にはローテク業界です。技術革新がないなかで、売り方の工夫を研ぎ澄ましていかなければならない。だからマーケティング技術が非常に発達します。私はそこで徹底的にマーケティングを叩き込まれました。

佐藤 なるほど、そこが原点なのですね。

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