宮内義彦(オリックス シニア・チェアマン)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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プロテスタンティズム

佐藤 そういう信念でやってこられたのに、宮内さんは謂れのない批判に度々晒されてきました。例えば、「かんぽの宿」です。郵政民営化に伴い、赤字だったかんぽの宿を一括してオリックス不動産に売却することが決まった。でも宮内さんが規制改革会議議長だったことから、鳩山邦夫総務大臣が「国民が出来レースとして受け止める」と発言するなどして、白紙に戻りました。

宮内 あのときはもう理解不能でしたよ。世論もメディアもどうかと思った。100億円ほどで落札したんですね。案件の担当者たちには、こんな高い値段で入札して大丈夫かと言ったくらいで、私としては高い買い物だと考えていました。それが、土地代と建設費で2400億円をかけたモノを100億円で売ってけしからんという話になった。

佐藤 当然、従業員とウワモノがついていて、その維持費だけでも相当かかりますからね。

宮内 我々は100億円で買って、改装費など数百億円の新規投資をして、採算が取れるようにするという計算でした。だから相当に大きな投資案件と思っていた。でもメディアは捉え方がまったく違った。

佐藤 理不尽な話です。

宮内 それで国を訴えようかと、腕利きの弁護士に相談していたのですが、経営者としては、訴訟によってどれだけ会社が傷つくかということを考えなければいけない。それで経済界の大先輩のところに相談に行ったのです。そうしたら、会社が大事なら訴えるな、と言われたんですね。

佐藤 それは私の経験からしても、国はとことんまでやると思いますよ。自分たちに分がないと思っても、最後まで機械的に争う。だから大変な消耗戦になります。

宮内 そうでしょうね。訴えていたら最高裁まで行ったかもしれない。だから訴えなくて良かったとは思いますが、納得はいかない。

佐藤 そんな思いをされても、宮内さんは日本にとどまって、社会を変えていこうとされた。シンガポールやニューヨークに拠点を移して事業展開することだってできたでしょう。そのほうが規模も大きくなったかもしれない。日本の中で社会を変えていこうとされたことが、非常に重要なポイントだと思います。

宮内 日本はこのままではいけないので、一人の経済人として少しでも改革のお手伝いができれば、という気持ちがありましたからね。会社が小さなときには、そんな余裕はありませんでしたが、やはり大きくなると考えなきゃいけないことが出てくる。衣食足りて礼節を知るじゃないですけども、ある程度余裕が出てきたら、社会のために働かなくては、と思いますね。

佐藤 こうしたお話を伺っていると、宮内さんの中に、どこかプロテスタンティズムの倫理観を感じますね。大学は関西学院でしょう。

宮内 中学からですから、他をまったく知りません。

佐藤 関西では同志社と関西学院に神学部があります。宮内さんが積極的に事業展開され、規制改革を推進されていく姿勢の中に、プロテスタンティズムの精神があると思います。そこでは、人はそれぞれ持っている使命があると考えますが、それを宮内さんは社会に貢献することだと捉えておられる。またその使命を果たす機会があれば、それを生かさないことは怠惰で、きちんと社会に対して責任を果たしていないと考えているのではないかと思いました。

宮内 なるほど、そのように見えるんですね。

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