冨山和彦(経営共創基盤CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

ビジネス 週刊新潮 2020年1月30日号掲載

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 グローバル競争によって、今や中産階級は消滅しつつある。それは先進国で世界的に起きている現象だが、グローバル企業からリストラされた中産階級の受け皿は、ブラックな職場の非正規雇用しかないのか。カリスマ企業再生請負人が、ローカル経済圏での中産階級再生の道筋を示す。

佐藤 ともに1960年生まれですね。何月生まれですか。

冨山 4月です。

佐藤 私は1月なので学年は一つ違いますね。この歳になると、サラリーマンになった同級生は、どうしていますか。

冨山 偉くなっているか、事実上、リタイアしているかですね。

佐藤 私の周りでは、すごく偉くなっているのは少数派で、大体はそこそこのところでとまっていて、「お前はいいなぁ、組織人じゃなくて」と言うんですよ。これから一旦退職して再雇用になり、年収は半分以下になるわけですが、「かつての部下が寄りつきもしない」と愚痴る。

冨山 それは組織人の宿命ですよ。

佐藤 私たちの世代はまるまる平成時代を社会人として過ごしてきたわけですが、冨山さんは、この30年をどのようにご覧になりますか。

冨山 日本の経済は停滞し、日本の企業が世界的なプレゼンス(存在感)を失った30年です。その前の30年は栄光の時代だったのですが。

佐藤 登り詰めたら必ず転落する。ギリシャの古典劇ですね。

冨山 これも歴史の法則で、前の時代の成功要因が負ける要素になっています。日本企業の形は、新卒一括採用の人が一生その会社に勤める。その極めて同質的、流動性の低い組織の中で、ひたすら改善改良をやり、高品質で安いものを大量に作るというモデルです。これは、状況が連続的に変化する時には強いんです。でもそこへ、一つにはグローバル化という現象が起き、もう一つはデジタル・トランスフォーメーション(変革)の波がやってきました。この二つの大変化によって、日本はどうしようもなくなってしまった。

佐藤 国際的な存在感も大きく失われました。

冨山 ええ。この二つの変化によって、日本がやってきたことが10分の1のコストでできるようになり、中国と台湾がセットで「世界の工場」となった。日本企業はこれに対抗するため、賃金を下げ、歯を食いしばって貧乏作戦を展開してきました。でもコストを10分の1にはできないわけです。おまけに為替も円高に誘導された。だからまず、私たちのモデルは後ろから追いつかれて破壊されてしまった。

佐藤 一方で、前にも立ち塞がったものがありますね。

冨山 そうです。衰退したと思われたアメリカからGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)というネットビジネスのモデルが出てきた。少数の極めて天才的なプログラマーやアーキテクチャーデザイナーの思いついたことが、一気に世界を席巻していきました。

佐藤 これが一人勝ちの状況を生み出した。

冨山 こちらは日本の組織にはすごく向いていないゲームなんですよ。ずっと一所懸命に緻密な野球を作り上げてきたら、急に種目がサッカーに変わってしまったようなものです。もう打順も守る場所も関係ない、攻めと守りは連動するんだと言われても、それはできないですよ。しかも野球はサッカーの下請けみたいな構図になってしまった。同質的で非流動的な組織には、対応の幅が限られていますから。

佐藤 右側通行を左側通行にするようなものですね。しかも日本の場合、会社に人生設計までもが含まれているので、そう簡単には変えられない。

冨山 その企業モデルに適応させる形で、教育も働き方も人生の送り方も作られている。だからさっき佐藤さんがおっしゃったような同級生の言葉が出てくるわけです。

佐藤 みんな鬱っぽくなっていますね。

冨山 その中で日本の企業が何をやってきたかといえば、歯を食いしばって頑張る路線か、小手先でGAFAの真似事をするくらいだった。

佐藤 小手先というのは?

冨山 新規事業としてネットでeコマース(電子商取引)をやってみたり、コーポレートベンチャーキャピタルを作って、ベンチャー企業に投資してみたり、端の方でサッカーをやってみるわけです。でも会社本体は野球をやっている。それでいくつかのビジネスは消えてなくなってしまったし、ついていけなくなった。例えば、テレビや携帯電話ですね。携帯電話の市場自体は成長しているのに、産業として衰退していく。

佐藤 もうシステム自体を変えないといけないわけですね。

冨山 日本型ガバナンスは、昭和の後半までは機能したと思いますが、今はもうフィットしなくなっています。あらゆるレベルでトランスフォーメーション、大規模な変容、改造をやらなくてはならない、というのが、グローバル企業が直面している現実だと思います。

佐藤 相当な難題ですね。

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