冨山和彦(経営共創基盤CEO)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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中産階級の消滅

冨山 これと連動してローカルな世界で起きていることがあります。結局、グローバル企業はこの変容についていけず、リストラを始めます。そうなると典型的な中産階級雇用を吐き出し始める。ローカルへ出されていった雇用の受け皿は、低賃金、ブラックな職場で、非正規雇用が多いわけです。具体的には、建設や介護の業界です。

佐藤 先進国においては世界的に起きている現象ですね。

冨山 そうです。要するに今のグローバル産業というのは中産階級を生まない構造になっている。グローバル競争の結果は、中産階級雇用を常に賃金の低いところへと移動させていきます。

佐藤 中産階級がなくなる一方で、生産手段を持つ少数が富を独占していく流れになっている。

冨山 昔、マルクスが心配したのとは違う形ですが、生産手段の独占が起きて、どんどん格差が広がっていきます。一部の頭のいい人たちがほとんどの生産手段を持っていってしまう。これは教育や知的な能力の問題にもつながっていますから、やっかいです。

佐藤 そこは民主主義の根本に絡む問題です。

冨山 ええ。そこは不調和を起こします。

佐藤 一人一人の能力の違いをどうするか。個々人の能力はアトム(原子)からなるものとして、同じ条件だったらみんな同じで、だから一人一票になっている、というのが民主主義です。

冨山 民主主義同様、市場経済も一応それが建前になっています。

佐藤 ただ、そこには問題もある。『21 Lessons』の中でユヴァル・ノア・ハラリが、ブレグジットに対する遺伝子学者ドーキンスの言葉を紹介していました。EU離脱問題は、イギリス国民に聞くべき問題ではない。なぜなら政治経済の必要な知識がないから。それは飛行機がどの滑走路に降りたらいいか、乗客に投票させるようなものだ、と。

冨山 そんな危ないことはない。

佐藤 そこに手をつけることができるかどうか。これから識字率が極度に落ちるということは考えられないので、物事を見極められなくても様々な情報は共有されます。日本でも、昨年は“桜まつり”というか、「桜を見る会」の騒動が、必要以上の大騒ぎとなった。

冨山 わかりやすいですからね。

佐藤 国会でもっと議論しなければいけない問題はあるし、紙面に限りのある新聞だってそうですよ。

冨山 そうですね。

佐藤 別の見方をすると、ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)が非常に大事になってくる。エリートが「儲かって幸せ」では済まされない。

冨山 20世紀前半も、ある意味でそうした問題を抱えていたのだと思います。あの時も新聞や映画が大衆メディアとして登場してきて、民主化運動が起きた。背景には20世紀型の富の独占があります。当時は設備集約型の産業が花形ですから、設備を持つお金持ちに富が集中して、階級差が広がりました。あの時は、その民主化運動の先にドイツのワイマール共和国の崩壊が起きて、さらには戦争となり、それらを挟む形でしか富の独占は克服できなかった。今回も、知識と富の独占が起きています。それをどう克服するかは、人類的な課題です。特に先進国は、新たな中産階級を生み出すことに真剣に取り組まなければならないと思います。

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