「京アニ放火殺人」から半年 「跡地に慰霊碑」に住民反対の葛藤

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 殺人事件として戦後最悪の犠牲者数となった「京アニ放火殺人事件」から半年が経過した。自身も大やけどを負った容疑者の青葉真司(41)は会話を交わせるまでに回復したものの、逮捕状の執行はまだ。一方、現場跡地を巡っては、「慰霊碑問題」が浮上して……。

 約半年前、猛火によって36名もの人が命を落とした忌まわしき現場は京都市伏見区の住宅街にある。昨年7月18日、青葉真司容疑者がガソリンをまいて火をつけるまで、京都アニメーション(京アニ)の社員がテレビや劇場用アニメーション作りに勤しんだ第1スタジオ。黒く煤けた建物の壁、焼け焦げた螺旋階段――。事件からしばらくの間、惨劇の凄まじさを物語る姿を周囲に晒したその建物は、現在は全体をグレーの防音シートで覆われ、中の様子を窺うことはできない。今月7日に始まった本格的な解体工事は4月下旬まで続く見通しだが、解体後の跡地を巡っては目下、“悩ましい”問題が持ち上がっている。

 遺族の一部が現場跡地に慰霊碑を建立することを希望する一方で、近隣住民からは「平穏な暮らしが妨げられる」として、慰霊碑などを建てないで欲しいとの要望が出ているのだ。慰霊碑を希望する遺族の心情は当然だが、反対する住民の側にも酌むべき事情がある。故に“悩ましい”のである。

 犠牲者の一人、石田奈央美さん(49)=当時=の母親に聞いてみると、

「あそこはもう穢れた土地でしょ。その事実は変わりません。だったら、建物を建てて面白半分で来られるより、公園や慰霊碑にしてちゃんと手を合わせられるような場所にして欲しい」

 として、こう語る。

「あそこには行っていません。警備員さんがいたり、張り紙が張ってあったりして、会社もピリピリしているみたいで。慰霊碑になったら、落ち着いて手も合わせられるのに。遺族はみんなそう思うでしょう」

 一方、現場の跡地がある因幡東町町内会の安達欽哉会長は次のように話す。

「遺族の方の気持ちも、ファンの方々の気持ちもよく分かるのですが、慰霊碑が出来てしまうと、節目節目に大勢の方がいらっしゃることになる。京アニさんはそれだけ愛されていたということなのでしょうが、ここは我々の生活の場でもある。そのあたりを斟酌してもらえればと思います」

 昨年の9月頃まではファンらがひっきりなしに来ていたといい、

「多い時には近くの道がいっぱいになってしまうほどでした。皆さん、黙って手を合わせられて。でも、中には少しマナーが気になる方もいました。車で乗りつけて“ここやここや!”と騒ぐ人とか、近隣住宅の敷地に腰掛ける人とか。献花台の撤去後も花束を持ってくる人がいて、路地や駐車場に置いていってしまう。悼む気持ちは分かりますが、誰かが片付けないといけませんからね」

 そう話す安達会長によると、京アニは町内会にも入っていたという。

「京アニさんはこの町内に根付いていて、我々の生活の一部になっていました。それだけに事件の衝撃は大きく、遺族や社員の方々の苦しみや悲しみはよく理解しているつもりです。ただ、ここは住宅地ですから、慰霊碑などが出来て、不特定多数の人が無制限に訪れるというのは困ります」

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