「京アニ放火殺人」から半年 「跡地に慰霊碑」に住民反対の葛藤

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犠牲者の名前は…

 慰霊碑といえば、事件であれ事故であれ、犠牲者全員の名前が分かるようにするのが一般的である。日航ジャンボ機墜落事故現場のふもとにある「慰霊の園」には、犠牲者の名前を刻印した石板がある。ニューヨークの「9・11同時多発テロ事件」の慰霊碑の周囲にもやはり、犠牲者の名前が彫られている。しかし、京アニ事件の慰霊碑を建立する運びになったとして、犠牲者名をそこに刻印するという流れにすんなりとなるだろうか。

 京アニ側が京都府警に対して犠牲者の実名発表を控えるよう要請したのは、事件発生の4日後。それを受け、府警は遺族が実名発表を了承した10名の犠牲者のみを昨年8月2日に発表。残る25人については、それから25日後にようやく発表された。犠牲者の名前が2回に分けて発表されるという異例の事態となったわけだが、その背景には一人の政治家の動きがあった。1回目の実名発表の1週間前、「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」会長の古屋圭司衆院議員が菅義偉官房長官に対し、

「警察は遺族の了解を得ない限り、葬儀が終わるまで実名公表は控えてほしい」

 と要請していたのである。

 古屋議員は警察庁を管理する国家公安委員長を務めたこともあり、警察サイドとしてはその意向を無視するわけにはいかなかったのではないか。いずれにせよ、犠牲者の実名発表を巡っては、水面下でも綱引きがあったのだ。

「慰霊碑は犠牲者全員の名前を刻むものだと思いますが、現時点でご遺族全員が慰霊碑を建てることに賛成なのかどうか、という問題がありますね。遺族の中にもいろいろな意見の人がいるでしょうから」

 と語るのは、メディア法に詳しい早稲田大学大学院非常勤講師の田島泰彦氏だ。

「遺族の中にも、慰霊碑を建てて犠牲者の名前を刻んでほしいという方もいれば、そっとしておいてほしいという方もいるのではないでしょうか。実名発表を巡って議論になった際、心理的葛藤を抱いた遺族は多かったはずです。慰霊碑を建てるとなると、遺族が再びそうした葛藤に悩まされる可能性は大いにあります」

 現場の近隣住民から慰霊碑に反対する声が上がっていることについては、

「現場の周辺に住む方からすれば、一部だとしても、やじうまや興味本位の観光客がやってくるという環境で過ごすことは大変でしょうし、落ち着いた生活を取り戻したいという気持ちはよく分かります。本来、慰霊碑というのは現場の地域住民に強制的に押し付けて建てるものではない。性急に計画を進めるのではなく、時間をかけて慎重に考えるべきでしょう」(同)

 犠牲者を悼む。その方法は、慰霊碑の建立以外にも選択肢があるはずなのだ。

週刊新潮 2020年1月30日号掲載

特集「『京アニ放火殺人』から半年 『跡地に慰霊碑』に住民反対の葛藤」より

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