「観光公害」はガマンの限界 舞妓が被害届の京都、“おもてなし奴隷化”する王子…

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なぜ「対策」をとらないのか

 ということは、2020年に訪日外国人観光客数4千万人、旅行消費額8兆円を目標とする日本も、スペインと同じ轍を踏むことは間違いない。そんな「破滅」が見えているのに、なぜ国は外国人観光客へのマナー啓発などの「対策」に積極的ではないのか。

「安倍政権に、他に誇れる経済的実績がないからです。インバウンドは、パッとしないアベノミクスの中で唯一と言っていい成功例。旅行消費額8兆円の達成は難しいが、観光客数はかろうじてクリアできそうなので、勢いを削ぐような話はしたくない」(政治部記者)

 この構造、水俣病や四日市ぜんそくなどの「公害病」と全く同じである。甚大な「被害」が報告されているにもかかわらず、行政がこれらを放置し続けたのは、経済成長の勢いを止めたくないという思いがあったからだ。そこに加えて、「観光推進」の看板を下ろさないのは、政権のキーマンである菅義偉官房長官が“ご執心”であることも大きいという。菅氏が主催する朝食会に参加した企業経営者は述べる。

「菅さんは、中国人観光客の“爆買い”が注目を集めていた時、この結果は政府が観光ビザ要件を緩和したからだと胸を張っていました。国主導で、外国人観光客を増やしているという自慢は彼の鉄板ネタです」

 泣く子も黙る政権の実力者が、ここまでのめり込んでいるということは、安倍政権が続く限り、「観光公害」の対策は期待できない。

 実際、観光庁はこう言い放つ。

「『観光公害』の具体的な相談件数は把握していません。数えるほど重要な事案ではないという認識です。京都の舞妓さんの件など、地域ならではのマナー啓発は地方自治体にお任せしています。自治体などから相談があれば、情報共有を含め協力はしたいと思っておりますが、外国人観光客を規制することはあり得ません」(外客受入参事官室)

 結局、「観光公害」を国が野放しにする以上、自分たちの力でどうにかしなくてはいけないということだ。

(2)へつづく

鈴木大和/ジャーナリスト

週刊新潮 2019年8月8日号掲載

特集「インバウンドで嬉しくない悲鳴! 名勝地はガマンの限界という『観光公害』」より

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