「結婚して墓の近くに戻ってこい」親への罪悪感に悩まされ続けた33歳一人っ子男性の半生

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「血を絶やしてはいけない」という重圧

 どこまでもしんどそうな話の多い鈴木さん。ここまで自分にルールをかし、地元の親を気にしていると恋愛も何か問題がありそうだ。

「実は僕、初めて彼女ができたのが26歳のときなんです。さっきも言ったように人付き合いが苦手なので大学にもなじめず、一瞬だけ文化系サークルに入っただけで恋愛も経験していません。初めて付き合った彼女は、当時転勤で地方にいた際に、取引先の方からお見合いを勧められて交際に至りました。結婚も考えましたが、彼女はずっとその地で暮らしたい、でも僕は将来的には地元に帰らないといけない。それが原因で破局してしまいました」

 現在33歳の鈴木さんだが「一人っ子なので血を絶やしてはいけない」という思いから結婚願望はあるそうで、今、マッチングサイトで婚活中らしい。鈴木さん曰く、地元では「子は産んで当然」という意識がまだまだ根強いという。なんだか、10年以上前に「女は産む機械」といった内容の発言をして、多くの国民から批判を受けた元厚生労働大臣の柳澤伯夫氏を思い出してしまった。

 冒頭でも記したがぱっと見、鈴木さんはモテそうな外見をしている。マッチョ体型が好きな女性もいるが、私も含め、痩せ体型の男性を好む女性は多い。しかし、この体型のことでよく職場の男性たちから「もっと太れ」といじられるそうだ。幼少期からずっとこの痩せ体型でいじられやすかったため、自信のなさにつながったのかもしれないとも語っていた。

 痩せ体型克服のために筋トレやジムに通ったりする気はないのかと聞いてみるも、そのようなことをする気はないそうだ。個人的には筋トレをして筋肉を見せつけている男性が苦手である。ほとんどの男性はコンプレックス克服のため、また一部の男性は女性にモテたいために筋トレをしているようだが(以前ナンパ師を取材した際、ほとんどのナンパ師が筋トレを日課にしていた)、鈴木さんからはそういった「モテたい欲」「自分を良く見せたい欲」が感じられなかった。

 婚活男子の中には女性に求めるものが多すぎたり理想の女性像が高い男性もいる。鈴木さんはどんな女性を求めているのか尋ねてみるも、「ほとんど経験がないので、正直求めるものもわからなくて……年齢差がプラスマイナス5歳までというところでしょうか」と、はっきりしない様子だ。しかし、彼の過去の経験から考えると、彼の地元に嫁げる女性でなければならないはずだ。

「実は祖父が地元のちょっとした有力者で顔が広く、帰省するたび、近所の人から『鈴木さんところのお孫さんだね。しっかりお母さんを守らないとね』などと声をかけられます。父を数年前、病気で亡くしてしまったので、余計そう言われるのだと思います。印象的だったのは、父は僕が地元の市役所に就職してほしいあまり、コネを使って病室から市役所に電話をしようとしたんです。父は自分のやりたい仕事に就いていましたが、不安定な職でもありました。だから、自分の息子には安定した職に就いてもらいたかったようです」
 
 私の地元でも、公務員か地元の銀行員として就職するのが勝ち組とされていて、地元でそれらの職に就いた人は「親孝行だね」と言われる傾向にあるが、実際に亡くなる前の鈴木さんのお父様がそこまで市役所職員にこだわることに、田舎特有の体裁や見栄を感じた。

 さて、私は「一人っ子だからワガママなんでしょ?」と他人に言われるのが嫌だったが、鈴木さんは「一人っ子だからマイペースなんだね」「我が強いよね」と社会人になった今でも言われることが嫌だという。マイペース。確かにこの言葉は悪い意味を無理やり良いようにくるんで皮肉っぽく使われることもある。

 墓の近くにいないといけないこと、親への罪悪感、血を絶やさないための結婚……。閉鎖的な息苦しさの中を彼は生きているように思えるが、おそらくそれが彼や彼の地元の人たちにとっては普通なのだ。鈴木さんと私は地方の一人っ子、親の期待のために勝手に自分にルールを設けていることなどの共通点はあるものの、さすがに世界が違う点が多い。

 今回は男性の一人っ子のエピソードだったので、次回は自分と同じ女性に話を聞くつもりだ。

 バックナンバーはこちら https://www.dailyshincho.jp/spe/himeno/

姫野桂(ひめの けい)
宮崎県宮崎市出身。1987年生まれ。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをして編集業務を学ぶ。現在は週刊誌やWebで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)。ツイッター:@himeno_kei

2020年1月3日掲載

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