「いきなり!ステーキ」と「大戸屋」テレビ取材が裏目 ブラック企業と呼ばれる共通点

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専門家不在が露呈

 ここで改めて、大戸屋に対して批判的なツイートを、いくつかご紹介しよう。

《経営者の人は現場で試行錯誤する店長さんに文句を言うだけでしたね、各店舗の店長さん達が可哀想でサービスを要求する気分になれないので、大戸屋に行く事は今後数年に渡って無いです》

《「このままじゃ店つぶれるよ」店主に放ったその言葉、社長にそのまま返されそうだ》

《社長が、調理時間の効率化や調理の並行作業の指示で1時間短縮とかマジ無能。人はロボットじゃないんだが。会社がお店に金かけないから現場は困ってる》

《大戸屋…ブラック企業過ぎる。というか、飲食店はこれが普通なのか?だとしたら、益々飲食店で働く若者は減ると思う。残業に対する感覚が麻痺しているし、社長もおかしい》

もちろん、批判一色というわけではない。《ブラック企業のようには思いませんでした》、《あれでブラックって叩かれるんだなぁ》、《言うほどブラックに感じなかったのは感覚がマヒしているのかしら》と大戸屋の姿勢に理解を示す投稿も少なくなかった。

 だが最終的に、大戸屋は公式ツイッターで謝罪に近いニュアンスのツイートを投稿する。批判を無視することができなかったのだろう。

《「ガイアの夜明け」をご覧頂いた皆様、ありがとうございました。現在も残業時間を含め、働き方の改革中です。ご視聴頂いた皆様からのご意見を誠実に受け止め、社員の皆さんが健全に働ける環境づくりを会社全体で取り組んで参ります。この度は貴重なご意見をありがとうございました》

 これまでブラック企業と言えば、「自分はブラック企業で働きたくない」という個人的な問題としての議論が多かった。ところが今回、いきなり!ステーキや大戸屋に対する批判で浮かび上がったのは、「ブラック企業である飲食店で食事はしたくない」という投稿が少なくなかったことだ。

 フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏は「今後は労働者という観点だけでなく、消費者としてもブラック企業を忌避するという傾向は強まっていくでしょう」と指摘する。

「かつて、昔の学校では教師の生徒に対する体罰は容認されていた事実があります。それが今ではありえないことです。かつての時代の飲食店と顧客、体罰はありない時代の飲食店と顧客とでは、“ブラック企業”“への印象は正反対になることでしょう。厨房からは理不尽なイジメは消えていくはずですし、消費者にはホワイトな飲食店が醸し出す空気が自ずと伝わって、そんな店を選んでいくことでしょう」

 いきなり!ステーキと大戸屋では期せずして同時期にブラック企業との批判が集中した。千葉氏は「偶然ではなく必然です」と言う。

「両社の店舗が都内に数店しかないような規模なら、来店を訴える張り紙を貼っても、テレビカメラの前で店長を叱責しても、これほど批判ないのではないか。視聴者の視線が厳しい理由に、『これで上場企業と言えるのか』という驚きがあったのではないでしょうか。密着番組の中で社長の側近や労務のプロが登場することはありませんでした。番組は期せずして、いきなり!ステーキと大戸屋のワンマン体質と、両社とも専門家が不足しているのではないかという疑問を浮き彫りにしたようです」

 千葉氏は外食産業の経営について、「マインドは創業時の小さな職場を忘れてはいけない」としつつ、「会社の規模が大きくなれば、捨てなければならない過去もある」ところが難しいと指摘する。

「この2つの会社の原点は、東京・向島の洋食店と池袋の定食店です。創業時の想いや、かつて従業員と密接にコミュニケーションをとっていた伝統は、企業の財産として残していかなければなりません。しかし会社の規模が大きくなるにつれて、会社は公の存在になっていき、店を運営するためには仕組みが必要になります。それをいつまでたっても精神論で統治していることによって店舗の現場に無理が出てしまうのでないでしょうか」

 いきなり!ステーキは2013年に1号店がオープン。大戸屋は創業こそ1958年だが、ジャスダック(当時は店頭市場)上場は01年だ。結局のところ、2000年代に急成長を遂げた会社と言える。

「ひょっとすると、いきなり!ステーキさんも大戸屋さんも、成長のスピードが早すぎたことで、企業を治める意識が昔のままで、むしろ内側に向いているのかもしれません。両社ともにアドバイザーの専門家を登用するなど企業体質を修正する必要があるのでは。お客さまにはお客さま満足を会社全体で真に追求しているのか否かが自然と伝わります。その歯車がずれるとますますお客さまから離れていくのではないでしょうか。このようなことはチェーン展開によって急成長している企業が共通して抱えている課題です」(同・千葉氏)

(註:引用に際してはデイリー新潮の表記法に合わせた)

週刊新潮WEB取材班

2019年12月27日掲載

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