新浪剛史(サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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お酒と社会と国家

佐藤 地域によって文化が大きく違うのはお酒もそうですね。私がいたロシアは、ソ連が崩壊してからお酒が楽しく飲めるようになったんです。

新浪 そうなんですか。いまロシアのビジネスはすごく伸びています。ウオッカからウィスキーやバーボンなどブラウンスピリッツにどんどん変わってきている。

佐藤 ソ連時代は、飲むとなれば一晩にウオッカの500ミリリットルボトル1瓶はみんなが1人で空けていた。なぜそんなに飲むのかと言えば、相手の人物を見抜くためです。ヘロヘロになるまで飲ませ、酔う前と後の発言が違うか、つまり信用できるかどうかを判断していた。

新浪 それはすごい社会だ。

佐藤 あとソ連崩壊後はレストランが静かになった。昔はいつも大音響のバンドが入っていた。

新浪 盗聴防止ですね。

佐藤 そうです。安全に話せる場所を確保するのが、レストランに行く目的でした。ちなみにモスクワには1930年代まで喫茶店がたくさんあったんです。これが都市改造でゼロになった。レーニンやスターリンは喫茶店から革命運動を始めたんですね。だから体制を崩壊させるのは喫茶店からだと考えたからです。

新浪 中国はどうですか。

佐藤 中国もアルコール度数の高い白酒(パイチュウ)から度数の低い紹興酒に移ってきている。度数の低い酒を飲むようになるのは、ロシアと同じで、他を気にせず酒を楽しめるようになったということだと思います。

新浪 興味深い分析です。でも中国は今すごい監視社会じゃないですか。今後はどうなっていくんでしょう?

佐藤 監視されていても、特定の人間を狙った時にビッグデータが集められていくわけで、私は生活自体はあまり変わらないと思いますよ。

新浪 米国で聞くと、中国からの留学生などは、なかなか本音を話さない、そうなると信頼関係を築いていくのが難しいと言うんですね。

佐藤 そういうことはあるでしょうが、文化が違う面もある。ロシアも同様ですが、何か国家の利益に反することがあった場合、それを大使館に訊かれたら、話すのが彼らのスタンダードです。国民の義務として報告するという文化がある。でもやってくる人民がみなスパイということはないですよ。

新浪 なるほど。幸いにも中国との関係は良いのですが、これだけ強大になった中国とどう向き合っていくかは、我々グローバル企業の大きな課題です。

佐藤 そこは避けて通れませんね。

新浪 今後も日本がヘッドクオーターであることは変わりませんが、シンガポールや、中国の北京、上海、米国ではニューヨークなどの拠点での活動が多くなってくる。またインドも重要です。以前はそれぞれの国のマクロ経済とか、人口動態とか、消費量などを理解していればよかったのですが、今はFTA(自由貿易協定)の動向や、地政学的にどの国がどう動くか、テクノロジーがどう変わるかなど、日々把握すべき情報が本当に多い。これだけ社長が疲れる時代が来るとは思いもよりませんでしたよ(笑)。

新浪剛史(にいなみたけし) サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長
1959年神奈川県生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。2002年ローソン代表取締役社長CEO、14年5月取締役会長。同年8月にサントリーホールディングス顧問となり、10月から代表取締役社長。内閣府の税制調査会特別委員、経済財政諮問会議議員なども務める。

週刊新潮 2019年12月12日号掲載

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