川井梨紗子が郷里のレスリング会長に異例の苦言 彼女の両親が語る“ドンとの確執”

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不本意な異動も…

 驚くのは、下池氏は教育委員でもないのに高校の体育教師の人事異動まで牛耳っているということだ。初江さんは「石川県でレスリングをやっている高校なんて多くないですから、すべて会長の意向が反映してしまう。体育教師など高校教員の人事異動を牛耳っていて、実際、不本意な異動が行われている。私も『(下池氏が)言うことを聞かないと旦那さんがかわいそうな目に遭うんじゃないの』とか、忠告されたこともある。実際、会長に意見して協会から強化スタッフなどから外された人もいましたし。こうしたことが続いていて誰も会長には意見を言わなくなっているのです」と打ち明けてくれた。実際夫の孝人さんは少し前まで協会の理事長だったのが現在は常務理事に降格している。

 初江さんは、「国体の代表を決める時、うちのジュニアクラブで頑張っていて県外の大学に行った選手が県大会で優勝して代表になると思ったら会長から『あなたの教え子は入っとらんよ』と言われたという。2年程前のことだ。「梨紗子は子供のころ一緒に練習していた友達が選ばれなくて辛かったのでしょう」と振り返る。

 女性蔑視発言について初江さんは「県内の人は『会長がそう言ってた』とはあまり言わないんです。仕返しされるから。でも県外からの人は『残念だと言ってた。ひどい』と話す。

 川井梨紗子は最後に「協会を私物化しないでほしい。レスリング強化のための協会であってほしい」とした。なんだか、最近のテコンドー協会のようになっている。協会には最高顧問として、文科大臣だった馳浩氏が存在するが今回、動きが見られない。初江さんは「選挙とかへの影響を考えて黙っているのではないかな」と話す。

 9月に行われたカザフスタンの世界選手権では、妹の友香子が3位に入って、梨紗子と初江さんが抱き合って泣くのを筆者は目の当たりにし、強い家族愛に感動を覚えたものだ。友香子の階級にいた梨紗子は姉妹出場を目指して自ら階級を変え、伊調馨とぶつかることになってしまったのだ。家族一丸となってここまで築き上げ、ついに姉妹で「五輪出場」を成就した。今回の異例発言は親思いの梨紗子選手の決死の発露だっただろう。初江さんは「娘は地元がリオ五輪の前のような空気になってほしくないという思いが強かったのではないでしょうか」などと話してくれた。

「わしは権限あるからしようと思えば自分の一存でクビや採用はできるよ。川井(孝人氏)なんかとっくの昔にクビになっておわっとるよ。わしがその気になれば」と「俺は独裁者だ」とばかり得意げにTBSのインタビューに答えている下池氏の語り口や姿を見て、洗練された人物と見る人はいまい。残念ながら地方のスポーツ界に今も少なからず存在する老害の「ドン」の典型だろうが、川井姉妹のような大スターが出たことで、石川県でそれが顕在化してしまったようだ。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月2日掲載

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