「おまえも死ぬぞ」に10万“いいね” 「お寺の掲示板」人気の理由

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「おまえも死ぬぞ」
「ばれているぜ」
「NO ご先祖,NO LIFE」
「君たちがいて僕がいる」……。

 一読して何の脈絡もなさそうな言葉ですが、実は、ある共通点があります。

 これらの言葉はすべて、お寺の門前に設置されている「掲示板」に掲げられた言葉なのです。

 最近になって、この「お寺の掲示板」を取り上げるメディアが増えています。新聞や雑誌をはじめ、「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系列)や「あさイチ」(NHK)といったテレビの人気番組でも特集が組まれ、2019年9月には書籍『お寺の掲示板』(新潮社)も刊行されました。

 各所で話題を呼んでいる「お寺の掲示板」ですが、そのきっかけは、2018年7月より開催された「輝け!お寺の掲示板大賞」。TwitterやInstagramなどのSNSで掲示板の写真を募集し、その投稿作品を選んで発表する企画です。投稿者は、偶然お寺の前を通りかかった人や、実際に掲示板の標語を書いた寺院関係者などさまざま。

 同賞が、同年10月1日より「ダイヤモンド・オンライン」で連載(「『お寺の掲示板』の深~いお言葉」)が始まると、人生指南になりそうな言葉や、思わずドキッとさせられるユニークで意外性のある言葉が、SNSを中心に話題を呼び、人気コンテンツとなります。2018年7月~10月に集まった投稿は、約700作品。本記事冒頭の掲示板の言葉は、この時に投稿されたものです。

 企画の発案者は、浄土真宗本願寺派僧侶で、公益財団法人仏教伝道協会に勤める江田智昭さん(43)。

「もともといろいろなお寺の掲示板を読むのが好きで、それを集めたらきっと面白い企画になるのではないかと思って立ち上げたのですが、予算もほぼゼロだから当然広告も打てず、最初は投稿が全く集まらなくて……」

 ところが、ひとつの投稿作品が、状況を一変させます。

 企画開始から2週間後、「おまえも死ぬぞ 釈尊」という岐阜県・願蓮寺の掲示板を撮影した作品が発表されると、「強烈!」「シンプルなのに深い」「本当にお釈迦さんはそんなことを言ったのか!?」など、さまざまなリアクションを呼び、SNSを通じて瞬く間にネット上に拡散。5万を超えるリツイート、10万を超える「いいね」が付き、第1回「輝け!お寺の掲示板大賞」も受賞しました。

お寺のSNS革命

「企画を立ち上げた理由のひとつとして、昨今問題視されている“お寺離れ”を何とかしたい、という思いもありました。特に地方の寺院では、人口減に伴う檀家の減少が深刻で、廃寺になるところも少なくありません。とはいえ、これまで通りのスタイルで“伝道”をしていても、“お寺離れ”を解消するのは難しい。もっと新しい形で、お寺の“文化資源”を有効活用できる方法はないか模索していました」と語る江田さん。

 そこで目をつけたのが掲示板だったといいます。

「掲示板をつかった伝道自体は、今に始まったことではなく、昔からあったものです。それに誰もが一度は掲示板を目にしたことがあると思うんですよ。でも、これまでほとんどの人がそれをきちんと読むわけではなくて素通りしていた。せっかくそのお寺の住職が、わかりやすく仏教の教えを広めようと知恵を絞って書いているのに、それはもったいないなと」

 では、その掲示板をより多くの人に知ってもらうには、どうすればよいか――。

「今の時代、SNSを活用する他にありませんよね。筆書きのアナログな掲示板がSNSによって拡散される、というそのギャップも、注目された理由のひとつではないかと思っています。“インスタ映え”ではないですが、写真があることで、掲示板の言葉の内容だけではなく、その筆致や掲示板のたたずまい、門前の雰囲気まで伝わってきますから」

 近年、掲示板以外でもSNSを活用するお寺や住職が増えているそうです。お寺の行事の告知をしたり、仏教の教えやメッセージを伝えたり、その活用方法はさまざまです。

 一部では「掲示板職人」と呼ばれ、次々とバズる掲示板をSNSにアップしている「お寺の掲示板大賞」の“常連”、広島・超覚寺、福岡・永明寺、京都・龍岸寺の各住職も、それぞれがSNSのアカウントを持ち、僧侶としてフルにSNSを活用しています。「お寺とSNSの相性は、存外悪くないのかもしれません」と江田さん。

難しい仏教用語は使わない

「お寺の掲示板は時々見るけど、難しくてよくわからない言葉が多いよね」

 これは、「タモリ倶楽部」でお寺の掲示板の特集が放送された際に、タモリさんが漏らした感想です。同じことを思っていた人も、少なからずいたことでしょう。これまでは、経典や各宗派の祖師の言葉を引用して掲示するのが一般的だったようですが、難読の漢字があったり、意味が取りづらかったりする言葉も多い。しかし、あくまで「仏教を知る入口」として「お寺の掲示板」を活用しようとする場合、道行く人の足を止め、興味を持ってもらうためには、易しくて、かつ説得力のある言葉が必要になるといいます。

「これまでは各宗派の本山や地域の支部から、『今月はこの標語を掲示するように』という模範が渡され、それを参考にする方も多かったですが、比較的若い世代の住職は、できるだけ自分の言葉で仏教の本質を伝えようと努力していますね」と江田さんは分析します。

 その好例が、過去最大級にバズった、先述の願蓮寺の「おまえも死ぬぞ 釈尊」でしょう。とはいえ、それが仏教の教えからあまりにもかけ離れたものになってしまっては、そもそもお寺の掲示板に掲示する意味はなくなってしまいます。書籍『お寺の掲示板』のなかで、江田さんは、この掲示板の言葉をこう解説しています。

「釈尊の教えを伝えるとされる原始仏典『サンユッタ・ニカーヤ』の中では、『生まれた者が死なないということはあり得ない』(中村元訳『ブッダ悪魔との対話』、岩波文庫)と記されています。この標語を書かれたご住職は、それをより直接的な物言いにしたのだと思われます」

 平易な言葉で、いかに仏教の本質を突いた言葉を掲示するか――各寺院の住職の腕が試されます。

「衆生は不安よな。阿弥陀動きます。」

「輝け!お寺の掲示板大賞」は2019年にも開催され、昨年を上回る925作品の投稿が集まったそうです。すでに10万を超える「いいね」が付いた「衆生は不安よな。阿弥陀動きます。」という福岡・永明寺の掲示板をはじめ、その他にも「ボーッと生きてもいいんだよ」「お釈迦様を嫌いな人もいた 『誰にも嫌われたくない』なんて思わなくていい」「隣のレジは、早い」などの掲示板が、続々と話題になっています。

「世間にもっとお寺に関心をもってもらいたいし、その注目をお坊さんにもっと感じてもらいたいので、これからもお寺の掲示板大賞を盛り上げていきたいですね」と語る江田さん。

 さて、今年はどんな掲示板が大賞に選ばれるのでしょうか。大賞の発表は、12月5日だという。

デイリー新潮編集部

2019年11月30日掲載

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