ワンス・アポン・ア・タイム・イン・巨人軍(ジャイアンツ)第1回 さらば昭和の読売巨人軍

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「ジャイアンツ・アズ・ナンバーワン」の時代

 振り返ると、2000年代初頭までは“地上波プロ野球中継=巨人戦”というベタな図式が一般的だった。古くはONの時代からテレビCMも盛んで、原辰徳は明治製菓や大正製薬、江川卓は不二家、松井秀喜は富士通や久光製薬、高橋由伸がサントリーとそれぞれ大企業の顔としてお茶の間を席巻。83年(昭和58年)巨人戦の年間平均視聴率は27.1%と、今考えれば冗談のような数字を記録している。いわば、どんな有名芸能人よりも頻繁に、毎晩視聴率20%超えのナイター中継とCMに登場していたのが巨人の主力選手たちだったわけだ。まだ海の向こうのメジャーリーグも他人事だった頃、結果的にそのメディア大量露出は日本全国に巨人ファンを増やすことになる。

 西武ライオンズが所沢に来た1979年に埼玉に生まれた自分も、気が付けばG党で、熱烈な原ファンになっていた。まるで、『キン肉マン』や『ドラゴンボール』のコミックスを読むように、小遣いで「月刊ジャイアンツ」や「週刊ベースボール」を買っていたのをよく覚えている。あの頃、世の中の多くの人は巨人戦中継を入口に他の球団の選手を知っていったのではないだろうか。子どもたちは社会常識の一環として「松本、篠塚、クロマティ、原、吉村、中畑……」なんて巨人スタメンを言えたものだ。当時の映画や漫画を見ても、街中をYGマークの帽子をかぶった子どもたちがそこら中を走り回る日常の風景。

 80年代中盤のパ・リーグでプレーしたある外国人選手は日本で印象に残っていることを聞かれ、「どこでも巨人ファンがいること。タクシーの運転手、レストランも巨人ファンばかり。巨人が勝てば日本全体が幸せという感じ。あれは面白かった」とコメントしている。

 そんな、大量のファンとアンチを生んだジャイアンツ・アズ・ナンバーワン時代。しかし、2006年あたりから徐々に巨人戦の平均視聴率が2桁を切るようになり、各テレビ局も中継数を減らしていく。つまり、テレビをつけたら老若男女いつでも巨人を見られるという状況が終わったわけだ。

 興味深いデータがある。おもちゃメーカーのバンダイが小中学生を対象に実施した「好きなスポーツ選手」アンケートの2019年版では、1位大谷翔平(野球)9.3%、2位羽生結弦(フィギュアスケート)7.0%、3位大坂なおみ(テニス)6.7%、4位錦織圭(テニス)5.2%、5位浅田真央(フィギュアスケート)5.0%、6位八村塁(バスケットボール)4.3%、7位池江璃花子(水泳)4.2%、8位サニブラウン・ハキーム (陸上) 3.3%、9位久保建英(サッカー)3.1%、10位本田圭佑(サッカー)2.7%というベスト10の結果である。

 彼ら彼女らに共通しているのは「世界と戦う」というキーワードだ。野球選手で唯一ランクインしている1位の大谷はメジャーリーガー(日本ハム時代は17年5位が最高位)だし、全豪オープンテニスで日本人初優勝を飾った大坂なおみやNBAで活躍する八村塁にしても舞台は“世界”である。

 そうなると、日本国内でストーリーが完結するプロ野球選手は厳しい。NPBからも、巨人からも誰ひとりとして子どもたちの好きなスポーツ選手にランクインしていない。令和初の日本シリーズは注目度も視聴率も世界と戦うラグビーW杯に完敗した。近年NPB各球場の観客動員数は過去最高クラスの数字を記録しているにもかかわらず、だ。世間と球場の乖離。カープ人気で沸く広島のような一部の地域を除いて、20世紀の異常なジャイアンツバブルが終わったプロ野球は、徐々にコアでマニアックな娯楽になりつつある。それはノスタルジーではなく、ニッポンのリアルだ。

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