「味の素」を無視する人たち(中川淳一郎)

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 この前、「お通しなし!」を謳う安い餃子居酒屋に行ったのですが、ここで食べた「ネギサラダ」というヤツが実に美味でした! 生の万能ネギを切って何らかのタレで和え、すりゴマをかけただけのものですが、コレがあまりにビールに合い、4人の男で4皿も食べてしまいました。

 その味の記憶を基に家で再現しまして、最近、自宅でビールを飲む時はこればかり食べています。1人前の作り方(ビールロング缶2本分にピッタリ)は以下の通り。

【材料】万能ネギ3本、キャベツの千切り少し、岩塩、ゴマ油、黒胡椒、味の素、すりゴマ【作り方】すりゴマ以外の調味料を小鉢に入れ混ぜ、3センチに切った万能ネギとキャベツの千切りを入れてよくかき混ぜ、最後にすりゴマをかける。量は適当で。適宜「塩が足りないな」「ゴマ油もう少し入れとくか」的でいいです。

 最後のすりゴマがあるかないかでビールが進むか否かの「つまみ度合い」がまったく変わってきますので、絶対に必要です。というか、これら全部必要です! 「ゴマ油+塩」という調味料のウマさはレバ刺しやチョレギサラダでもご存知だとは思いますが、今回のネギサラダは不意打ちでした。

 さて、こんな前置きを書いたうえで、日本のレシピ業界に対して異議申し立てをしたいことがある! レシピ本や雑誌のレシピ紹介では食材と調味料を書くのが普通ですが「塩」「胡椒」「XO醤」「オイスターソース」のような味を決めるものだけでなく、「すだちの絞り汁少々」や「サラダ油ではなくネギ油」のような「うふっ、私、違いが分かる男なの」みたいなものに加え「八角」「カルダモン」のように「ワシはこんな通が使う調味料やスパイスも使うのである、ガハハ」的なものまで表記する。

 それなのになぜ、「味の素」は書かないのだ! これら化学調味料は漫画『美味しんぼ』が「使うと舌が痺れる」と散々叩いたこともあり、悪の権化のように扱われてきました。だからメーカーは「自然由来ですよ、ご安心ください」と啓発活動をし続けてきた。

 それでも「化学調味料」の名称のインパクトは強すぎ、彼らを重要スポンサーとするメディアは忖度をし、「うま味調味料」という意味不明の名称を時々用いるようになりました。しかし、うま味調味料=味の素、ということがバレたら今度はこの言葉さえも用いなくなりました。どうせ皆使ってるんだろ?

 中華料理店の店主がテレビの料理番組に登場した時も、このうま味調味料(笑)を入れるシーンは出てきません。嘘つけよ。厨房が見える中華料理店で、玉杓子でドバーンと味の素入れているところ見たことあるぞ。

 それを食べた自称・グルメの化学調味料否定男は「ウマいね! ご飯が進むね!」とモリモリ食うではありませんか! あのな、お前は料理をしたことがないだけだ。

 あと、ラーメン業界でも「無化調」という言葉があります。これは化学調味料を使っていない店、という意味ですが、私には物足りなかった。それ以後一度も行っていません。味の素の有無は単なる「好み」って誰か明らかにしてくれよ。ちなみに今回紹介した「ネギサラダ」、味の素ナシだとウマさ20%減です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年11月14日号掲載

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