神津里季生(日本労働組合総連合会(連合)会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

ビジネス 週刊新潮 2019年10月24日号掲載

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組合の「ばね力」

神津 ただこの20年くらい、労働組合がない企業の労働者との所得格差がものすごく開いてしまっているのも事実です。私たちは組合という制度があるから、一人一人の賃金は上がっています。私は「ばね力が働く」と言っているんですが、組合があると、組合員にも会社にもいい影響がある。

佐藤 組合との緊張関係があると、会社は儲けなければならないし、一方、労働者側も規律をきちんと守らないと会社に付け込まれてしまう。会社にとって組合は鬱陶しい存在ですが、組合があると労働力の質が良くなり生産性も上がってくる。

神津 おっしゃる通りです。

佐藤 組合のないところで強圧的な労働者管理をすると、働いているふりをしたり、面従腹背になったりして、肝心なことをやらなくなりますね。特に安全確認がなおざりにされる。すると大事故が起きたりする。

神津 そうです。そういう機能があるだけに、もっと組織率を上げていかないといけないんですね。組合がないと、格差の構造も解消されませんから。

佐藤 プロレタリアートというのは、古代ローマのセンサス(国勢調査)の中で、子供以外に富を生み出せない人たちのことです。でも今の状況は、早稲田大学の橋本健二教授によると、アンダークラス、年収180万円の人は男性の場合、有配偶者率は4人に1人。すなわちプロレタリアートですらない。ここまできたら個人の努力では無理で、政策的な配慮がないと這い上がれません。

神津 本当に抜き差しならない状況になっていると思いますね。

佐藤 そこで政治が出てくるわけですが、夏の初めの参議院選挙で、連合は傘下の労組が立憲民主党と国民民主党に分かれる「股裂き」状態でした。こういう選挙はもうやりたくないとおっしゃっていましたが、野党を通じて連合の理念を実現していくのは、どこかまどろこしくないですか。

神津 そこは難しいところですね。

佐藤 ダイレクトに政府、あるいは経団連と話をする。政府、経営者、労働組合、その三者で協議というのはどうですか?

神津 私たちの言葉で言うと「三者構成」ですね。枠組みとしてはあるんですよ。かつての自民党政権の時にはあった。でも民主党政権に代わるちょっと前から事実上、立ち消えになっている。

佐藤 それはやっぱり新自由主義的な発想の影響じゃないですかね。

神津 影響はあると思います。民主党政権になってもその枠組みは立ち消えのままでした。第2次安倍政権になって、財界に賃上げ要請した時、限定的に2年間だけ政労使会議があったのですが、政府がそういう姿勢を世の中に見せてお役御免という感じで終わってしまった。本来は定常的に三者構成で議論すべきだと思いますね。

佐藤 政府に対して、いつも政府性悪説みたいな見方をしていると、現実問題は変わらない。政府は政府の、経団連は経団連の立場がある。しかしきちんと話したら、折り合いのつくところもあるかもしれない。

神津 そうですね。大企業なら経団連、経済同友会もあります。一方で中小企業の団体も様々ある。全国中小企業団体中央会という組織とも定期的にセッションを持つようになっています。

佐藤 政党だと、中小企業には圧倒的に公明党が強いですね。代表の山口那津男さんのお話を聞いていると面白いですよ。富めるものが富めば貧しき者にも富が回ってくるというトリクルダウン理論なんか、正面から否定しますものね。

神津 私から見ると、中小企業にはさっきお話ししたような「ばね力」がなかなか働かないわけです。その上、大企業が儲けられない時には中小企業にしわ寄せする悪しき取引慣行があって、これがまた格差を拡大させている。

佐藤 大企業の論理というか、業績が悪い時にやれることはないかと考えると、そうなっちゃう。だからそこは政治が入ってきちんと歯止めをかけないといけない。

神津 そこを何とかしたい。

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