神津里季生(日本労働組合総連合会(連合)会長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

ビジネス 週刊新潮 2019年10月24日号掲載

  • ブックマーク

民主主義の学校

佐藤 連合は今年30周年です。

神津 総評、同盟、中立労連、新産別が集まって、当時は組合員が約800万人でした。それが現在は約700万人、組織率は17%です。逓減傾向には歯止めがかかったと思いますが、8割以上の人が組合を直接知らない。

佐藤 いろいろ批判もあります。所詮、大企業のエリート組合の代表とか、既得権益集団とか。

神津 二言目にはそういう言葉で揶揄されてしまう。組織率が低いのはそれも影響していますね。

佐藤 でも、そういう批判はおかしいと思うんですよ。そもそも民主主議の中で、連合は「部分」の代表です。さまざまな利益代表がいる中で、まずは自分たち所属組合の利益を守る。それは当たり前のことで、その部分の代表たちが均衡点を見つけていくのが民主主義ですよ。もし連合が巨大組織だからといって、労働者全体の利益とか、労働者だけでなく農業者とか、さまざまな利益を調整することになったら、それはもう国家です。だからエゴイスティックだという批判は、労働組合の機能や民主主義の仕組みを理解していない批判だと思いますね。

神津 長らく連合に身を置いていると、ここはやっぱり「民主主義の学校」なんだと思います。物事を決める時に、一つ一つ、皆さんの総意ですね、いいですね、と確認しながら決めていく。その上で会社と対峙すべき時は対峙し、協力すべき時は協力する、というスタイルでずっとやってきた。

佐藤 利害対立する中で均衡点を探ることが大切です。

神津 私たちは交渉で「妥結」と言いますが、一般的には「妥協」です。この言葉にはマイナスイメージがあるから、そう批判されることもある。でも意見が違うところで、どう一致点を見出すかは非常に重要なことです。ここはもっと学校教育の中で教えて欲しいところですね。

佐藤 それは重要な指摘です。また、労働運動にしても労働組合にしても、中学高校くらいから専従の活動家を呼んだりして、教えていかないといけないですよ。そうすれば組合に対する偏見が少なくなる。

神津 自分とは縁遠い存在であるとか、何をしているかわからないとか、ネガティブな見方が少しでも減ると、組織率も上がってくると思います。

佐藤 連合批判の背景にもなっていると思いますが、このところマルクス経済学の影響が弱くなっているせいで、会社が何であるか、がわからなくなっているんじゃないでしょうか。労働力が商品化されているもとで、搾取をしない資本家なんか存在しません。唯一あるとすれば倒産した企業の資本家です。でもその場合は賃金が払えない。

神津 それは最悪ですね。

佐藤 そこを理解した上で、労働運動を考えなければならない。資本家としては利潤を増やしていくことがあの人たちの職業的良心ですから、労働者が何も言ってこなければ、どんどん利潤追求に向かっていく。でも賃金や雇用条件など、労働者側と経営者側で求めるものが違うところが出てくる。労働者の利益を守ることがいかに重要か、そこを強く出していけば、連合が部分の代表と開き直っても、理解を得られるんじゃないでしょうか。

神津 そこは基本中の基本で、さらにしっかりとやっていきたいですね。

次ページ:組合の「ばね力」

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]