三木谷浩史(楽天 会長兼社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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IT業界対国家

三木谷 それでも、出過ぎた杭ではないですが、日本では企業も個人もこれからはもっと外向きになった方がいいと思います。それに海外で活躍する日本人についてはみな何も言わないわけですよ。そこまで行けばいい。日本って居心地いいんです。でもそのコンフォートゾーンを抜けないとだめだと思います。

佐藤 賛成です。私も2割くらい自分に力の負荷を掛けないと、仕事が前に進んでいかないと思っています。英語なんか、引っ込み思案が許されないという環境じゃないと絶対伸びないですよ。

三木谷 だから若者のメンタリティを変えたい。

佐藤 その意味では、三木谷さんは社内での教育にも非常に力を入れられていますね。

三木谷 英語化に当たっては、社員にTOEICの試験を何度も受けてもらったり、講師を招いたりイベントを開催したり、あるいは英会話学校へ通いやすくするサポートも実施しましたね。他には科学技術面。昨年から新人に関しては財務部に行く人も法務部に行く人も6カ月間プログラミングを勉強してもらっています。今年はそれに加えてAIとデータサイエンスについてもある程度のものを習得してもらおうと。あとは国際性と最先端知識ですね。これらをどう体系的に組み上げていくか。楽天は創業して22年ですが、これから100年先を作っていくとすると、そういうことをしっかりやらなくてはならないと思っています。

佐藤 イスラエルの諜報機関モサドの教育って面白いんですよ。常に職員の3分の1が研修中なんです。交代で研修をしている。そして必ず情報専門家以外に食べていける仕事を二つ作ることになっている。それは身分を偽装するために必要なんですが、それだけじゃない。この分野で仕事をしていると、必ず事故が起きる。その時には役所をやめてもらうことがある。でもスパイしかできないと組織に恨み骨髄で敵対してくるんですね。二つくらい手に職をつけてあると、円満に離職してくれる(笑)。

三木谷 なるほど。楽天で働いている人も、外に行って困らないと思うな(笑)。

佐藤 そうでしょう。だからインテリジェンス機関の教育にちょっと似てる。

三木谷 そうやって若い世代が育ち、20~30年後の社会では、オープンなインターネット環境のもと、政府の発表やメディアの報道をそのまま信用するんじゃなく、自分の視点で物事を判断していくようになってほしい。ただ、この情報革命の反動でいまよりペイトリオティズム(愛国主義)が進展していくという見方もある。もしかしたらIT業界対国家という対立がますます激しくなっているかもしれませんね。

三木谷浩史(みきたにひろし) 楽天株式会社 代表取締役会長兼社長
1965年、兵庫県神戸市生まれ。一橋大学卒業後、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に入行。93年、ハーバード大学でMBA取得。95年、興銀を退職し、翌年にクリムゾングループを、翌々年にエム・ディー・エム(現・楽天)を設立し、「楽天市場」を開設した。2012年に発足した新経済連盟の代表理事も務める。

週刊新潮 2019年10月3日号掲載

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