三木谷浩史(楽天 会長兼社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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国の機能が変わる

三木谷 今年、楽天は自前の回線によるモバイル事業に参入します。そのために本当に新しい革新的なプラットフォームを作ります。最初から5G対応のネットワークにするんですが、ソフトウェアとハードウェアを分離してクラウドを通じて制御する。圧倒的に低コストで作れますから、通信費も下がります。質的にも量的にも通信を変革していくプロジェクトなんですが、これは英語化がベースになっているんですね。この仕事をしている人がかなりの割合で、外国人がリーダーであったりエンジニアだったりするんです。

佐藤 その人たちを動かしていくには、言葉とともにフェアネス(公正さ)が非常に重要になってきますよね。日本的な文化の文脈を離れて、日本人も外国人も納得できる人事システムであるとか、職場の環境であるとか。

三木谷 そうです。インドから招いたタレック・アミン氏が4月に楽天グループの副社長になりましたが、全く日本人と外国人の差別はありません。今や日本人だけでも英語でミーティングやってる会社ですから。

佐藤 そこが重要なところです。日本人だけでいる時に日本語で話すと嫌な雰囲気になりますから。

三木谷 しかも、だんだん日本人だけで集まるようになる。

佐藤 日本人だけの時も英語で話すと、いろいろ利点がありますよ。かなりキツいことでも英語だと言えます。私も妻も元々外務省のロシア専門家だったので、夫婦間でロシア語に切り替える時がある。「あなた何を言っているの」とか「それは間違えている」とかストレートな表現は日本語では角が立つんですが、ロシア語なら問題にならない(笑)。

三木谷 それはあるかもしれないですね。日本は社会の融和を保って平和的に発展してきた。それ自体が悪いわけではないけれど、これからは国が関係ない時代がきます。その時にどうするかです。

佐藤 本質的な変化は既に始まっています。

三木谷 通貨とか、社会保障や医療とか、どんどん変わってくる。国の規制なんかもそう。シェアリングエコノミーが実現して、インターネットのレビュー制度がきちんとあれば、そこで安全性が確保できるわけですよね。ホテルやタクシーじゃなくても、いろんな分野でそれはやれる。またレビューを読んで自己責任で対応ができるようにもなる。そうすると国の機能が変わってくる。

佐藤 私の実感として、国の機能があまり強くなくても大丈夫と思うのは、ソ連にいたからなんですね。ソ連ではタクシーが国営しかない。でも道で手を振って止めるとほとんどが白タクです。その白タクにもルールがあって、後部座席に乗らず助手席に乗らなきゃいけない。後ろに座るのは政府高官だけなんです。またロシア人はとにかく備蓄する。ソ連崩壊後に価格を自由にしたらインフレの年率2500%。でも餓死者も出ないし、デモも起きない。みんな備蓄していたからです。あの、何でも国が面倒を見ますよというソ連の体制の中で、外交・安全保障以外はほとんど信用できないということを国民が広く共有していましたね。

出過ぎた杭として

佐藤 三木谷さんは改革者だったりいろいろ制度を壊していく破壊者だと見られているわけですが、実は組織への帰属意識は強いんじゃないかと思いました。

三木谷 組織への帰属意識ですか?

佐藤 まず興銀のような厳しい環境の中ですぐには飛び出していない。

三木谷 まあ、興銀はそんなに厳しくはなかったですけどね。

佐藤 それに英語もそうだけども、チームワークを重視している。会社の効用ということでは、組織が人を引き上げてくれる要素がありますね。それをすごく感じます。旧来的な非合理的愛社精神ではなくて、健全な意味の組織への帰属意識だったりチームワークというのはこれからすごく重要になると思います。いま学生たちが成果主義に走って、年収でこのくらい稼いだら、次は転職してさらに多く稼ぐことを追い求めるようなところがありますが、それじゃつまらない。

三木谷 今までの年功序列型ではなく、若い人が活躍したらそれに対する正当な対価を得るというのはいいし、技術者や特殊技能をベースにしている人も同様だと思いますが、一方で人間的な実力や教養、知識や技能というのを高めていかないといけないとは思います。やはり会社は世の中に価値のあるものを生み出していく、人々の生活を豊かにするというところが最終的な目標ですから。

佐藤 でもこの資本主義社会の中では競争は必要不可欠で、勝ち抜いていかなければならないわけですよね。ところが一定の評価をされると逆風が強くなる。政治や官僚の世界でもそうで、吹き飛ばされないためには一歩前に出なければいけないのだけど、そうするとますます逆風が強くなる。三木谷さんもそうでしょう?

三木谷 やっぱり出る杭は打たれるということはありますね。でも出過ぎれば打たれない、というところもあると思うので。そのためには気を抜かない。コンプライアンスをしっかりするということでしょうか。

佐藤 男のヤキモチはすごいものがありますからね(笑)。

三木谷 それは文化の根底にある程度ある(笑)。

佐藤 私の場合、外務省のノンキャリアでしたから、絶対にキャリアには追いつけない。だから出る杭は打たれるかもしれないが、出過ぎた杭は打たれないという感じで仕事をしてきたんです。その結果、破格の待遇を受けて、局長級の機密費もつけてもらったし、東京大学で教えもした。でも捕まってから鈴木宗男さんが言うんです。「出過ぎた杭は打たれないというのは間違いだね。出過ぎた杭は抜かれるんだ」と。東京地検特捜部がきて抜かれてしまったわけです(笑)。

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