少年野球「上手な選手からつぶれていく」現象は一体なぜ起こるのか

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「今の時代、子どもたちは、どっぷり野球漬けになるか、いっさい野球に触れないままか、ふたつにひとつなんですよね(笑)」——。

 少年野球をテーマに取材する中で、ある人から聞いた言葉である。

 今は公園でボール遊びが禁じられている時代である。野球めいた遊びをみんなでやって、その中から本格的に進む子がいたような、昭和の流れはもう望めないようだ。

 野球をするにはまずチームに入る! そこで野球にすべてを捧げ、世間の常識から少し(いや、かなり?)離れた世界で厳しい鍛練を積む。こうしてできあがるのが野球漬けの少年たち……ということだろう。

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少年野球の課題とは

「少年野球のチームに入るためにはある意味、覚悟が必要になってしまいました」

 首都大学野球連盟1部リーグの筑波大学硬式野球部監督の川村卓さんは、「少年野球の課題って何でしょう」と尋ねる筆者にまずそうに語るのだった。

 野球部の指導のみならず、野球を科学的に捉える「野球研究室」を率いる川村さんは、 “パパコーチ”風情が会えるはずもない人である。だが少年野球に向けた提言もしていることもあり、今回取材に応じてもらったのだった。

 少年野球の子どもは土日を練習・試合に費やし、他の習いごとやスポーツとの掛け持ちは至難である。親はお茶当番や各種催事の手伝いのような“しきたり”に順応しないといけない。覚悟なしに入った筆者からすると、「そんなことまでやるんですか?」と感じるしきたりも少なくない。

「野球の入り口に高いハードルがあって、さらに『勝つためにはこうしないと』という理屈で、それぞれのチームの“原則”が増えている気がします。そこに疑問を感じます」(川村さん)

 サッカーのように魅力あるスポーツが普及してきている以上、覚悟をもって少年野球に入る家庭が減っても、まったく不思議はない。この野球人口減少に関わる問題はいずれ考えてみたい。

 さて、取材ではまず、川村さんが考えている、野球の「段階的な指導」について聞いてみた。

幅を利かせる「習うより慣れろ」式

“パパコーチ”としてグラウンドで練習の手伝いをしながら感じるのは、「キャッチボールは野球の基本」といった古来ある(?)“基本”を除けば、少年野球で子どもが指導されるのは、状況判断に関わることがほとんどじゃないかということである。

「1死二、三塁、ゴロを捕ったセカンドはどこに送球するか」——そんな話である。

 息子はそういう練習を楽しそうにやっているので文句はない。ただ、まだ小学生なのだから「投げる・打つ・捕る」という基本的な能力を高めていく指導がもっとあったらいいなと期待するのである。

 なぜか? 野球らしい動きをまだできていないような低学年の選手に求めるものも、状況判断だからである。

 九九を教える前に、かけ算の応用問題を解かせるようなものかなと思う。

 昔風の「習うより慣れろ」式なのかもしれないが、筆者が違和感を覚えることのひとつなのである。

 ちなみに息子は入部当初、キャッチボールでボールをロクに捕れず、筆者は「何でこんな簡単なことが!」と憤ってしまっていた。

「正面で捕れ」という指導者の声が飛んでくると、親として変に情けなくなったりもした……それができりゃ、苦労はないよ、と。

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