少年野球「上手な選手からつぶれていく」現象は一体なぜ起こるのか

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逃げる、よける、手に当てる

「野球では、大人でも子どもでも、ほとんど同じ練習をします。これは野球以外のスポーツから見たらすごく奇妙なんです」

 と川村さん。

 ウォーミングアップ、キャッチボール、トスバッティング、フリーバッティング、シートノック……。

 筆者が田舎の高校でやっていたことと同じことを、いま小学生の息子がやっている。

「多くのスポーツで、子どもの発達や世代に応じて、『身に付けやすい技能はこれで、必要な練習内容はこう、こんなことをしたらケガにつながる』といったものが示されています」(川村さん)

 典型的なスポーツのひとつがスキーで、年齢や技術レベルによって指導が体系化されているとのこと。

 そうだ、初心者は必ず「ボーゲン」をさせられるイメージがある。

「でも野球には、そういう体系化された、段階的な指導法がないまま今日に至っている感じです」

 ダメじゃん、野球。

 しかし「キャッチボールは野球の基本」なら、ある。

「でも子どもたちにとって一番むずかしいのがキャッチボールなんですよ」

「低学年だと、キャッチボールのときに親が後ろでボールを拾いまくってますよね」

 キャッチボールが成立しない理由は簡単。捕球ができないからなのだ。

 では、野球研究室が開発した「段階的な指導法」で捕球の技術を向上させるとなると——。

「まずボールから逃げるんです」

 使うのはゴムやスポンジのボールでいいという。

「ボールを自分の方に投げてもらって、子どもは逃げる。意識して逃げるときは、だいたいボールをよく見るものなんです」

 確かに!

“パパコーチ”として観察するところでは、初心者の子どもはこんな感じ。捕ろうとするものの、固いボールが怖いのか、目を半ば背け、グラブを伸ばして体から離れた位置で捕ろうとする。

「最初は体全体で大きく逃げて、小さな動きでよけるように仕向けます。それから『よけずにボールを手に当ててみよう』と変えていきます」

「手に当てる」はもう捕球の形じゃないか!

 筆者の息子が所属するチームでは、体の遠くにグラブをのばして捕球しようとする選手に、監督・コーチが叱声を飛ばす。

「正面で捕れ!」

 でも怖いのだから逃げる格好になっても仕方ない。それならいっそ逃げて、よく見る技術を養う方が良いのだろう。それに「逃げる、よける、手に当てる」ならゲーム性もある。

 うーん、これも「野球研究」の成果であるわけで、「正面で捕れ!」よりは楽しめるはずである。

 こんな感じで、楽しみながら段階的に成長する仕組みが普及しておらず、いきなり大人とほぼ同じの練習で鍛練に入るような世界だから、敬遠され、野球人口の減少を招いているのではなかろうか。筆者は息子が所属するチームを思う(1学年で1チームをつくれないほど人手不足の——)。

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