少年野球「上手な選手からつぶれていく」現象は一体なぜ起こるのか

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「食トレ」の弊害

 取材の後半、川村さんの大学時代の後輩で、プロに進んだ投手の話題になった。その人は高校時代は控えで公式戦登板も少なかったようである。ところが筑波大学で大幅に成長を遂げ、三振を奪取しまくってドラフト1位でプロに進んだ。

「大学に入りたての頃に見たときは、ボールは130キロそこそこでした」

 昨今130キロは高校生でも珍しくないスピードだろう。しかし、翌年には140キロを超すボールを投げていたらしい。

 指導者としてこんなふうに川村さんは話す。

「私たちの野球研究室では、ボールを速くする方法はいくらでも知っています。急激に上げることもできます。でもスピードが上がった2週間くらいあとで、その選手が『痛い』と言うんです。メカニクス(体の動き)は向上したけれど、体の成長が追いついていないからケガするんですね。“伸びどころ”は、選手ごとに必ずあって、指導者が個々の選手の身体を見て、徐々に上げていくのが良いのです」

 大学生でもそうなのだから、子どもならもっと気をつけないと。身体の成長に見合った段階的な指導が不可欠なのだろう。

 たまに息子のチームを訪ねてくる中学生たちがいる。OBである。上半身はがっちり、下半身もパンパンに膨れ上がっている。硬式のボールを使う「シニア」で野球をやっていて、高校は強豪校に進学する感じである。

 人づてに聞いたところだと、そういう中学生たちがいるチームでは「食トレ」といって、練習の合間の弁当のご飯は3合がマストで、その重さを毎回チェックされるとか。そうやって大量に食べて、体を大きくするらしい。

「“3合飯”みたいな食トレをやってしまうと、身体が早く成長してしまう印象があります」と川村さんは話す。

「成長して、そこで止まってしまう。シニアなら15歳くらい。身長は普通18歳くらいまでは伸びるものなのですが。食トレで急激に大きくなるので、進学先となる高校側から見たら魅力的に見えるのかもしれません」

 しかし大学や社会人、さらにはプロもある以上、野球は高校より先のことも見据えて指導されるべきなんじゃないか。

「僕らは選手の成長を予測して指導します。全体的には24、5歳くらいで花が開くイメージです。心身ともに充実するのがそのあたり。それまではずっと成長です。その前のどこかで伸ばしすぎてしまうと、成長が終わってしまうんです」

 筆者は高校野球のトップレベルあたりを目指しているのだろうか、ハードに練習する少年野球チームのことを思い浮かべた。大会に行くと、そうしたチームがたくさんあることに驚く。午前10時からの試合に備え、6時半くらいから練習をしている感じなのである。

 そして、初心者(たぶん1、2年生)も上級者(5、6年生)も似たような練習をしている。その光景からは、段階的な指導は感じにくい……。

 大人がいかに子どもの成長を我慢強く待てるかということなのかなと思う。頼りなげにキャッチボールをしていた息子も、丁寧に見れば大きな進歩を見せているのである。キャッチボールが普通にできて、バットでボールをとらえて飛ばせるようになって、と。

 子育ては我慢の連続だけれども、「段階的な指導」の考えに接してみて、同じ考えでグラウンドに立ちたいと心底思う“パパコーチ”なのであった。

池谷玄(いけたに・げん)
四十路のライター。趣味はプロ即戦力候補が格安で見られる大学野球の観戦。球歴はソフトボールから少年野球、中学野球部、高校の野球部(硬式)まで。最近好きな選手は福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手。

2019年9月21日掲載

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