「京アニ」犠牲者の実名公表、警察が異例のアンケート 遺族が語る公表への思い

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警察庁長官の意向

 京アニは様々なジャンルのアニメを制作しているが、全ての作品に共通しているのが、「動き」への徹底的なこだわりだという。

「木上さんのように強いこだわりを持ち、手を抜かない演出が京アニさんでは当たり前になっている。つまり、“京アニスピリット”の礎を築いた一人が木上さんということです」

 と、森脇氏。

「ただし、会社では後輩にガミガミ言うのではなく、木上さんがこれだけやっているんだから自分もやらないわけにはいかないと思わせる、背中で語るような仕事ぶりだったと聞いています。彼を失ったのは、アニメ界全体にとって大きな損失です」

 後進育成にも尽力した木上さん。そのかいあって、武本さんのような人気監督も生まれた。

「今回、周りの方から改めて息子のすごさみたいなものを聞くことが出来ました。多くの人が応援してくれていたことも知りました」

 と、武本さんの父親は言葉を絞り出す。

「事件から2週間経っても犯人のことなんて考えられません。火の中で息子がどれだけ苦しかったのか、熱かったのか、そればかりに意識がいきます。かわいそうで……」

 津田幸恵さんの父親の伸一さん(69)も犯人――自身も大やけどを負い、未だ重篤な状態が続いている青葉真司容疑者(41)のことはまだ考えられないという。

「毎年、お盆になると、幸恵は私が好きなものをお土産に買ってきてくれました……。でも、お盆や正月よりも、やっぱり電話が来ないっていうのが寂しいです。“いりゴマがなくなった”というような、日常的な会話が出来ないと思うと本当に悲しい」

 そう話す伸一さんによると、府警は当初、7月29日に犠牲者全員の名前を公表する予定だったという。前日には「明日お名前を公表する予定です」との連絡もあったが、結局、29日に公表されることはなかった。

「公表の延期を府警に指示したのは、警察庁です」

 と、先の全国紙の社会部デスクは言う。

「特に、栗生(くりゅう)俊一警察庁長官の意向が働いたと言われています。栗生長官は“何でもかんでも警察が責任を負うのはおかしいのではないか”という考えの持ち主。今回の件で言えば、実名公表に反対している遺族もいる中、全員の名前を公表すれば、批判の矛先は警察に向く。そうならないよう、遺族の了解が得られた場合のみ公表する“無難な判断”をしたのでしょう」

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