男子校出身の32歳が突然「フェミニズム」に関心を抱いた意外な理由

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フェミニズムは商売であり、フェミニストではない

 原口さんの話を聞いていると、彼にとってフェミニズムは商売であり、彼自身はフェミニストではないと感じた。原口さんは今でも、女子アナの女性性をネタにしたバラエティ番組などでつい笑ってしまう自分に、「あ、今俺笑ってた」と気づくことがあるという。

「フェミニズムに出会って完全に自分が生まれ変わったわけではなく、まだ自分の中にホモソ的な要素は潜んでいます。フェミニズムを理解したというより、権力の所在に敏感になった感じです。同世代くらいだとこの感覚は人それぞれなのかなと思いますが、10個下くらいになるとまた変わってくると思います」

 確かにタレントのりゅうちぇる氏やkemio氏のおかげで、多様性や人権が多くの若者に受け入れられた感じはする。しかし同じ若者でも、レペゼン地球のDJ社長のように、セクハラをネタにした挙げ句、それを一部のインフルエンサーたちがホモソ的なノリで楽しむ地獄絵図ができあがってしまった出来事もあったように、二極化している。

 原口さんは自身の中にまだ息を潜めている加害性のある男性性を恐れてか「権力を持ちたくない」と語る。

「権力はできるだけ手放していきたいです。でも、仕事柄、権力を持っていた方が本を売り出すときに有利なんで、仕事面では権力を持ちたいですが、権力を持つと誰かを嫌な気持ちにさせてしまうこともあります。でも、自分も無傷で誰も傷つけないでいることはあり得ないんです」

 また、プライベートでは権力を持ちたくなさすぎて「もっと考えて」と、同棲中の彼女に怒られることがあるという。権力を持たないということは同時に、責任を放棄し、思考を停止させることでもある。現在、原口さんカップルは引っ越しを予定しており、物件を探しているところだが、彼女ばかりが物件探しをしていたため怒られたそうだ。

 当初私は「男性のことをもっと知れば女性も生きやすくなるのではないか、男性学を学ぶべきではないか」と思っていたが、原口さんはこう続けた。

「確かに、稼がないといけないという圧は感じていますが、女性が男性のことを知るより、男性が女性の生きにくさを見つめた方が楽なんです。男性性の押し付けを逃れるために一番良い方法は、女性のしんどさを取っ払うことです。

 そうすると男性の方も軽くなってくるし、全体のためになる。男性が男性の苦しさを解決しようとすると、競争の論理に流れていってしまうので、実はすごく難しい。

 これはある種の逃げなのですが、自分自身の苦しさに向き合いたくないんです。多分僕は一生男性性や男性らしさから逃れられないから、男性学は存在するべきだと思います。でも僕は、自分の苦しさを解放できない代わりに、他の人を解放する手伝いができるのなら、そっちのほうがマシです」

 なるほど。私は無理して男性を理解する必要はないのかと思ったが、ちょっとした違和感が残った。その違和感の正体をひもといてみると、彼は生きづらさから逃げるために楽な方法を選ぼうと、女性任せにしている可能性がある点だ。

 いや、完全に任せているというわけではなく、「手伝い」という名目で女性の言動を何も考えずに受け入れているだけなのかもしれない。

 過去、ホモソ界にどっぷり浸かっていた原口さんがフェミニズムについて考えるようになった変遷のギャップは大きくて純粋におもしろい。目の付け所も頭の回転も良いため本も売れているのだと思う。要は、フェミニズム的な思考と手放したい男性性のバランス感覚が絶妙なのだ。

 なぜここまで女性が男性に気を遣わないといけないのか、男女の構造を気づかせてくれた原口さんに感謝したい。私はいちいち男性の顔色をうかがわなくてもいいのだ。しかし、原口さんはある意味特殊な例である。今後、もっと一般的な男性の意見も聞いてみたい。

 バックナンバーはこちら https://www.dailyshincho.jp/spe/himeno/

姫野桂(ひめの けい)
宮崎県宮崎市出身。1987年生まれ。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをして編集業務を学ぶ。現在は週刊誌やWebで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)。ツイッター:@himeno_kei

2019年8月16日掲載

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