北朝鮮への「横流し疑惑」で、韓国半導体産業の終わりの始まり

鈴置高史 半島を読む 韓国・北朝鮮 2019年7月12日掲載

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 韓国の半導体産業が衰退のとば口に立った。「横流し疑惑」で開いたパンドラの箱から「地政学リスク」が飛び出したからだ。韓国観察者の鈴置高史氏が対話形式で読み解く。

「寸止め」の輸出管理強化

――世界の半導体産業は大変なことになりましたね。

鈴置: それが「大変なこと」にはなっていないのです。韓国が得意とするのがメモリー、つまり情報を記憶する半導体です。ところが、その2大アイテムであるDRAMもNAND型フラッシュメモリーも、国際的な価格は落ちついています。

「北朝鮮に核関連物質を横流しする怪しい国」と日本政府が韓国を認定しました(「日本に『怪しい国』認定された韓国 文在寅は『受けて立つ』というが、保守派は猛反発」参照)。

 7月1日に韓国向けのIT素材の輸出管理を強化すると発表したのですが、それ以降も半導体市況に特段の動きは見られないのです。

――「半導体価格が急騰。世界は混乱に陥って日本への非難が高まる」と思っていました。

鈴置: 韓国紙の日本語版や日本の左派系紙を読んで、そう思い込んでいる人が多い。恐ろしい誤解です。

 今、半導体は不況の真っ最中。一年前と比べ、メモリーの価格は半値になっていました。市場にあふれているので、日本が輸出管理を強化しようが、ユーザーは焦って手当てしようとはしません。だから市況が安定しているのです。

 サムスン電子のバランス・シートを見ると、2019年3月末時点の在庫資産は31兆4560億ウォン。1年前と比べ8・8%増です。相当部分が売れ残ったDRAMと見られています。

 半導体価格が上がらないもう1つの理由は、日本の規制強化が「寸止め」になっていることです。

日本の輸出規制、韓国では『単なる報復ではなく、韓国潰し』と戦々恐々」でも書きましたが、韓国企業がメモリー生産に使っている素材は管理強化の対象ではないのです。

 確かに輸出管理を強化した3品目の1つ、レジスト(感光材)は半導体の製造に使います。しかし日本政府が管理を強化したレジストは極めて高品位のもので、メモリー製造用ではありません。

 だから、仮に日本からレジストの輸入が減っても韓国メーカーは直ちには困らない。輸出強化の対象となったエッチングガス(フッ化水素)も同様で、これに関してもメディアが大騒ぎするほど、韓国の半導体メーカーは困らないそうです。

「急所のすぐ横」を狙った

――なぜですか?

鈴置: 日本製ほど純度が高くない中国、台湾、韓国製のエッチングガスも使えないことはない、のだそうです。もちろん日本製を使った時ほどの収率は出ないと言いますが。

 朝鮮日報が「日本は半導体の『急所のすぐ横』を狙ったようだ」(7月11日、韓国語版)で指摘しています。

 サムスン電子の株価は7月1日から8日まで、4日を除いて下げました。しかし、7月9日以降、12日まで戻しています。「すぐには大事に至らない」との認識が広がったからでしょう。

 朝鮮日報の先の記事によると、有機ELの製造に使うフッ化ポリイミドも、日本が輸出管理を強化するのは、サムスン電子がスマホを作る際には使わない品目だそうです。だから見出しに「急所のすぐ横」とあるのです。「寸止め」です。

――では、韓国に実害はない……。

鈴置: 短期的には。ただ、中長期的には韓国には、恐ろしい未来が待ち構えていると思います。先ほど「寸止め」と言いました。日本の突き出した剣の切っ先は韓国の喉元で止まっています。韓国が日本に強気に出たりすれば、切っ先は喉に突き刺さるでしょう。

 例えば、報復と称して日本にさらなる危害を加えれば、日本政府が輸出管理を強化する対象に、DRAM用レジストを加えるかもしれません。

能力増強する米・日企業

――そうなったらDRAMが世界的に不足して……。

鈴置: 先ほど言いましたように、DRAMは今、余っているのです。それにDRAMを作るのは韓国企業だけではありません。確かにサムスン電子が46%、SKハイニックスが26%と高い世界シェアを誇っています。

 ただ、3位の米マイクロン・テクノロジー(Micron Technology)も21%のシェアを持っています。主力の広島工場(広島県東広島市)の生産能力の増強に動いています。

 6月11日に新工場棟の完成式典を開いて「サムスンを追い掛ける」と宣言しました。日経の「マイクロン、広島工場を1割拡張 次世代DRAM量産」(6月11日)が詳しく報じています。

 もう1種類のメモリー、NAND型に関しても東芝メモリ・ホールディングスが2020年の稼働を目指し、岩手県北上市に新工場を建設中です。

 日経産業新聞の「東芝メモリ、上場へ勝負手 売上高2兆円狙う」(6月25日)は、サムスン電子に真っ向勝負を挑む姿を描いています。

 東芝メモリのNAND型の世界シェアは約20%。サムスン電子の約33%に続く2位です。なお、SKハイニックスは5位の11%前後です。

 DRAMにしろNAND型にしろ、米・日の会社の供給能力が増す最中ですから、品不足で世界が困るなんてことはすぐには起きません。

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