特許侵害で負けたサムスン アップル「聖地」を侵略

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 世界市場で、アップル社製のiPhoneを圧倒するシェアを誇るアンドロイド搭載端末のなかでも、飛び抜けて販売台数が多いのが韓国サムスン製の端末だ。米調査会社IDCによれば、アンドロイド陣営全体の約4割(2013年第3四半期)を占めるに至ったという。もちろん、スマートフォンのシェアでは2位に大差を付けてサムスンが世界第1位。iPhoneの新機種「5S」の販売が本格化した2013年秋以降、アップルが猛烈な勢いでシェアを巻き返したものの、サムスンの優位は揺るがなかった。

 スティーブ・ジョブズが、そのサムスン製スマートフォン「ギャラクシー」を、自分が心血を注いで完成させた傑作であるiPhoneの“盗作”だとして目の敵にしたことはよく知られている。実際、アップルは地元シリコンバレーでサムスンを相手に特許侵害で訴訟を起こした。

 3年近い法的な駆け引きの後、法廷で両社が対決したのは、2012年夏のことだった。ジョブズは2011年10月に亡くなっていたので、裁判に立ち会うことはできなかったが、アップル側はその遺志を継いで、強気の姿勢を崩さなかった。

 通常、ビジネスの訴訟は専門用語が飛び交うだけの退屈なものになりがちだが、この訴訟は退屈どころではなかった。

 実際にこの裁判を傍聴したジャーナリスト、フレッド・ボーゲルスタインは著作『アップルvs.グーグル―どちらが世界を支配するのか―』(新潮社刊)で、その模様を次のように伝えている。

 対決の舞台となったカリフォルニア州サンノゼ連邦地裁の法廷には、両陣営とも10人前後の弁護士をそろえ、外ではさらに数百人の弁護士を働かせていた。公判は冒頭から討議が白熱し、ルーシー・コー判事は証拠採用をめぐって、信じられないほどしつこく食い下がったサムスン側の弁護士ジョン・クインに対して、「ミスター・クイン、このままでは処罰を下すことになりますよ」と声を荒げる、まるで法廷コメディドラマのようなシーンもあったという。

 結局、地裁陪審員は、指でタッチパネルを操作することで画面を拡大・縮小するピンチズームやデザインなどをサムスンが模倣したとして特許侵害を認め、約10億5千万ドルの支払いを命じた。

 その後、賠償額の計算に一部誤りがあったとして、再審理が行なわれたものの、2013年11月に出された評決で、賠償総額は総額約9億3千万ドルとなり、裁判はアップルの勝利となった。

 しかし、これでめげるサムスンではない。「アップルvs.サムスン」の闘いは、スティーブ・ジョブズの自宅があったシリコンバレーの高級住宅地パロアルトを舞台に、延長戦、場外乱闘の様相を呈している。

 パロアルトの中心部を通る「ユニバーシティ・アベニュー」には、長年アメリカを代表する書店チェーン「ボーダーズ」が店を構えてきたが、電子書籍に押される形で、閉店となった。その跡地に乗り込んできたのがサムスンだった。

 2013年9月に、書店の建物をそのまま使って「ソフトウエア・スタートアップ・アクセラレーター」を立ち上げたのだ。ソフトウエアを開発する企業の育成・支援を目的とするこの施設をテコに、弱点といわれるソフトウェアの開発力を高めようというのがサムスンの狙いだとみられる。

 まさに、アップルのお膝元でシリコンバレー発の技術を吸い上げようということ以上に挑発的なのは、このスタートアップ・アクセラレーターのロケーションだ。なんと、通りを挟んで真向かいは、かつて、アップルストアのパロアルト店があった場所なのだ。すでに店は同じ通り沿いの100メートルほど離れた場所に移動して、今は空き家となっているが、この旧店舗はアップルの新製品が発売される度にジョブズ夫妻が訪れたことでも知られる、いわば、アップルファンの「聖地」。しかも、地元のメディアによれば、この旧店舗の跡地に有名韓国料理チェーン店が入るという話もあるという。韓国パワー、恐るべし。

デイリー新潮編集部

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