罵声禁止、短時間練習、合理的指導…こんなチームがあったのか! 少年野球の現場で悩む父親ライターの正直な報告

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野球の裾野にいる子どもたちの環境を変えてあげたい

「春日に就職した人」として岡本さん、見延さんから紹介されたのが、コーチの一人、佐治大志さんである。就職とは院を出たあとにも春日に関わっているということで、今春チームは貴重な専属スタッフを得た。

 岡本さんによると、いま少年野球チームのようなスポーツ少年団で、法人格を取得する動きが強まっている。佐治さんは行政書士資格の取得をめざして勉強をしながら、今後も春日に関わり、春日が法人格を取得するときには資格を生かしたいと話す。独立開業すれば、心から望む少年野球の指導にも関わり続けやすいとの目算もあるという。

 練習中、選手たちに優しく声をかけていた佐治さんに「厳しい環境で野球をやってきて、自分の経験と正反対のことをするのは大変じゃないですか」と筆者が尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「『高圧的な指導をしないと野球指導とは言えない』という先入観があるんじゃないですか。僕は罵声指導に疑問を持ちながら大学院に入りました。それで『野球の裾野にいる子どもたちの環境を変えてあげたい』という発想になったんです。いまは少年野球のあり方をああでもない、こうでもないと議論する日々です」

「少年野球のあり方」を議論しているチームなんて、すてきだ。筆者が見聞する範囲では、指導者は「あの子はうまい、あのチームが強い」といった話題に終始している。指導者というより評論家かな。「オレらは青臭い話をする必要がない」と言われそうだが、大事なことなのじゃないか。野球人口減少の折、1学年で10人超の“集客力”がある春日の手法には学ぶべきことがあるのじゃないか。

 実際に「春日のようなチームをつくりたい」と手法を学びに来るケースもあり、この4月には川崎市で春日の理念に倣ったチームが誕生し、早くも20人ほどの部員を集めているらしい。新たなチームこそが少年野球のあり方を変えるのかもしれない。

 12 時半過ぎ、練習が予定通りに終わった。子どもたちは「午後、遊ぼうぜ」などと笑みを交わしてグラウンドを去って行く。終了後もコーチの一人で大学時代は投手だった加藤聡さんに、肩の可動域を拡げるトレーニング方法を教わっている子がいた。ぜいたくな環境である。ケガのリスク軽減にもなるし、岡本さんが言うように、大学まで野球をやった「カッコイイ」コーチへの憧れも、モチベーションになるはずだ。

 こういう場面が練習終了後にあるというのがいい。わが子を見てどうだろう。土日終日練習で、月曜日の朝はどんよりした表情のこともある。そしてその状況は筆者も同じだったりする。楽しい野球、ほどほどにしたほうが良いのかと毎週悩む、“パパコーチ”なのである。

池谷玄(いけたに・げん)
四十路のライター。趣味はプロ即戦力候補が格安で見られる大学野球の観戦。球歴はソフトボールから少年野球、中学野球部、高校の野球部(硬式)まで。最近好きな選手は福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手。

2019年7月6日掲載

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