定住せず土地を渡り歩く「アドレスホッパー」という生き方 その意外な“稼ぎ方”

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移住者争奪戦に終止符を打つ

 関係人口を増やす取り組みは総務省主導のもと各自治体で行われているが、「関係人口契約」は、国や自治体主導の契約事ではなく、あくまで木津さんとTUKULUとの間で立ち上げ、締結された独自の制度である。

 具体的に、木津さんが関係人口としてTUKULUに行うと約束した内容は、以下の3つ。

(1)香美町に滞在しなくなった後も、同地との関係性が希薄になってしまわないように、月に最低1回オンラインミーティングを TUKULUと実施する
(2)オンラインミーティングの後、必要に応じて「hyphen,」(地域の魅力を発信する創作・発信ユニット)と一緒に、香美町の活性化に向けたイベントなどの企画を立案する
(3)木津さんの運営するブログ「居候男子」にバナー広告を貼る

「毎年、香美町の移住フェアというイベントを東京で開催していますが、2019年はTUKULUと僕らで共同主催することになっています。また香美町に限らず、『木津がいるから』という理由でその土地に遊びに来てくれれば、その訪問をきっかけにその地の魅力を知り、その地を好きになってくれるかもしれない。そういうきっかけをつくることも僕の役割かなと思っています」

 こうした町おこしの仕組みには「地域おこし協力隊」という2009年に総務省が設けた制度もある。人口減少に悩む地域が、地場産業への従事、開発や広報などを担ってくれる人材を、外部から受け入れる取り組みだ。18年度では全国1061の自治体に5530人の地域おこし協力隊がいるとされるが、木津さんは移住をゴールとしているこの制度に対し、「別の関わり方を促す制度があってもいいのではないか」と話す。

「地域おこし協力隊は、自治体が毎月15万円程度を支払う代わりに生活の拠点を移してもらい、3年後に定住してもらうことを目的とした政策です。でも、同じお金を使うなら、僕は毎月3万円を支払って5人に関係人口になってもらったほうが、地域と関わる人が効率的に増えていくと思います。色んな自治体が盛んに移住政策を打ち出していますが、日本全体の人口が減っている中で、定住者のパイを奪い合っても先がない。それに、地方に移住するかしないかの2択だとハードルが高く、若い人はあまり魅力を感じにくいのではないでしょうか」

 地域おこし協力隊は、隊員を地域に縛り付けるデメリットがあるが、関係人口契約はもっと緩やかな制度であり、今後も増加が期待できる、というわけだ。

副業感覚でできる町おこし

 また、近年の働き方改革における“副業(複業)”ブームも、関係人口の増加に寄与する可能性もあるという。

「これからの時代は副業の一つの形として、地域と関わる仕事も出てくると思います。そのためには地域が働き口を作ってあげることが大切です。ただし、それはその地域に働きに来てもらうということだけを意味しません。たとえば、東京で香美町のイベントを開催するとき、都内に拠点を持っているメンバーがいれば、会場探しのコストを抑えられるし、香美町にいる人といない人が、同時に集客すれば、宣伝できるエリアや人の層がグンと広がります」

 現在はまだ木津さんと香美町(TUKULU)との間でしか関係人口契約を結んでいないが、今後は木津さんが縁のある地域やそこで暮らす人々の“ハブ”となって、関係人口を増やしていきたいという。

「働き方が自由になるなら、暮らし方も絶対自由になるはずで、移動をもっと気軽にする人が増えるはず。そうなれば、複数の地域と関係性を持つことも可能になると思います。僕がこれまで関係性を持ってきた地域同士が互いに興味を持ってくれたり……そういったことが、地域活性化のヒントになるんじゃないかと思っています」

 定住者と関係人口が行き交い、さまざまな土地の情報を交換し、また新たな移動を生む……。アドレスホッパーこそが地方復興の救世主なのかもしれない。ちなみに木津さん、次は沖縄で生活するそう。

取材・文/松嶋千春(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年6月28日掲載

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