「君の名は。」だけじゃない! 飛騨古川を外国人の99%が絶賛する理由──外国人が熱狂するクールな田舎の作り方(1)

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 岐阜県の飛騨市古川は、2016年に公開されて大ヒットした映画「君の名は。」の舞台となったことで知られる。飛騨古川駅に設置された飛騨牛のマスコットキャラクター「ひだくろ」の看板、駅を俯瞰する跨線橋、主人公の女の子が住む神社のモデルとなった気多若宮神社、飛騨市図書館などは、映画の「聖地」として多くの観光客が訪れた。映画は世界中で公開されたので、「聖地巡礼」の旅行者には外国人も多い。

 映画の公開から2年近く経ったので、さすがに聖地巡礼の客は減ってきたものの、それでも街では外国人の姿をよく見かける。それは、白壁の映える側溝に鯉が泳ぐ古川の美しい街並み自体が人気を集めていることもあるが、それだけではない。この地で展開されている着地型の観光ツアー、SATOYAMA EXPERIENCE(里山エクスペリエンス)が外国人旅行者に大人気だからだ。

最大のコンテンツは「なにげない日常」

 SATOYAMA EXPERIENCEを運営しているのは、2007年にこの地で創業した株式会社美ら地球(ちゅらぼし)。創設者で代表取締役の山田拓氏が著した『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』(新潮新書)によると、SATOYAMA EXPERIENCEは以下のような構成になっている。

「ツアーは、白壁の美しい飛騨古川の市街からスタートし、途中、蕎麦畑の中に立つ古民家を見たり、道端の湧き水を汲んでお茶にして飲んだり、田んぼのあぜ道を走りながらカエルの鳴き声を聞いたり、飛騨牛農家の方と立ち話をしたりと、日本の田舎のどこにでもある『なにげない日常』をゲストにお見せしています」

 日本人の感覚からすると、「そんなものがウリになるのか?」と感じられるかもしれない。しかし、山田氏によると、この「なにげない日常」こそが「最高のコンテンツ」だと言う。

 ツアーにはガイドが同行し、ポイントに至ると自転車を降りて、適宜、説明を加えていくが、こうした説明によって旅行者は「なにげない日常」の背景をさらに深く理解し、より興味を募らせていくという。

 興味を募らせれば、ツアーの後に飛騨牛や地元の酒や野菜を味わったり、お土産を買ったりする可能性も高まる。地域にもよい循環が生まれていくのだ。

「何気ない日常を見せるガイド付きサイクリングツアー」にしているのは、SATOYAMA EXPERIENCEが「暮らしを旅する」というコンセプトに基づいているからである。

 創業者の山田氏は、米系コンサルティング会社に勤務してアメリカで暮らした後、夫婦で525日間の世界放浪の旅に出た経験を持つ。山田氏は、そこでの思い出深い体験として、「世界のそこここのリアルなライフスタイルに触れたこと」を挙げている。

「アフリカ農村部に住む人の姿、マチュピチュのインカ・トレイルの途中で休憩した集落の様子、『そんな動物まで食べるのか!』と目を丸くした各地の市場の風景とか、今でも鮮明に思い出せます。それと同じように、旅行者には、私たちが自分たちの居を移すまでに魅力を感じた飛騨の毎日の日常を、なるべく飾らずに触れてもらいたいんです。触れたい人は世界中にいるし、喜んでくれるはずだという仮説は以前からあった。会社のスタッフもほとんどが海外での生活経験を持っているので、彼らも同じ認識を持っています」

客の8割は外国人

 実際、SATOYAMA EXPERIENCEには、世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」で、参加者の99%から絶賛のコメントが寄せられている。これまでにSATOYAMA EXPERIENCEを体験した旅行者の国籍は約80カ国。2016年度には約3500人の旅行者が参加しているが、その8割が外国人なのだ。

 しかも、SATOYAMA EXPERIENCEが際立っているのは、その外国人旅行者のうち、8割が欧米豪の個人旅行者であることだ。

 通常、インバウンドで地方部に旅行者を呼び寄せようとすると、どうしても中国人の団体客などアジア圏からの観光客に頼りがちになる。しかし、山田氏は最初から欧米豪の旅慣れた個人客に的を絞った。

「私がもともとコンサルティング会社にいたことも関係していますが、事業を成功させるには明確なターゲティングが必要です。特に、飛騨の場合、近隣に高山や白川郷のようなパワフルなデスティネーションがありますから、ガチンコでは勝負になりません。

 そこで、企業のニッチ戦略をベースに、この地域にすでに訪れているマーケットの一部であり、かつ地域への波及効果の最大化が見込める、欧米豪の個人旅行者マーケットを狙ったわけです。欧米豪の個人旅行者は、自分たちが価値があると考えるものには喜んでお金を払ってくれますから、安売り競争に巻き込まれることもない」

 事業を軌道に乗せるまでには時間がかかったが、SATOYAMA EXPERIENCEは今では世界中の旅行者のデスティネーションとして広く認知されるに至った。山田氏の「仮説」は見事に証明されたのである。

デイリー新潮編集部

2018年1月23日掲載

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