中毒者が急増中! 「バーニラ、バニラ♪」「俺の風♪」はなぜ耳に残るのか?
ロックな「俺の風」はGLAYにも通ずる
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稼げる男に俺はなる
夜の繁華街には他にも「バニラ」に迫る人気を博している名曲がある。男性専用の夜のお仕事求人サイトの街宣車が流す「俺の風」だ。
「『俺の風』も基本的にはバニラと同じで、ポイントはリズムですね。各『俺の風!』と『俺の風!』の間に休符が入って、裏拍が強調されている。細かい16分音符(『俺の風』の部分)を並べ、休符で止めることで“キメ”になり、よりリズミカルになっています。下手に音程を変えず、同じ音程で進むことで要素がシンプルになり、歌詞や曲が頭に入ってきやすくなっていますね」
また、「稼げる男に俺はなる」の部分ではバニラ同様、単純に終わらせることで、細かい16分音符との緩急がしっかりとつけられているという。
「音程をほぼ変えない16分音符で畳み掛け、単調に終わらせるという曲の作りは、GLAYの『誘惑』に通ずるところがあります。そうすることによって、ロックっぽさが出て、より漢(オトコ)感が演出されますからね。あとは最初の『おれ~のかぜ~』と『高~収~入~』の音符の動きが似ているのもポイント。『ミファミレミ』と『ドレドシド』と、ここにメロディの互換性があることで、曲はよりキャッチーに聞こえやすくなっているんです」
「俺の風」は昨年から首都圏で目撃情報が増えているため、「バニラ」に比べると歴史は浅い。しかし、短期間のうちに着々と“中毒者”を増やしているため、業界の覇者「バニラ」も戦々恐々としているに違いない。
「楽しく稼ぎたい」「這い上がってやる」の違い
夜の繁華街で音色を奏でる「バニラ」と「俺の夜」だが、両者にはこんな違いもある。
「メジャーキーの『バニラ』は明るい曲調のため、『人生ハッピーに楽しく稼ごう♪』という印象を与え、一方の『俺の風』はマイナーキーで少し暗めなので『このどん底から稼いで這い上がってやる!』という印象を与えるのだと思います。どちらも広告の真意を言い得て妙といった感じですね」
もっとも、世の中にはまだまだ耳に残ってしまう宣伝曲がごまんとある。最後に近谷氏は、このような名曲を腐らせることなく、どんどんアレンジして使う面白さがあると語る。
「中田ヤスタカさんが『バニラ』をリミックスしたり、BiSHが『キリンレモン』のCMフレーズを使って歌ったりもしていますが、このように宣伝曲にアレンジを加えて新たな表現に昇華させていくことで、もともとの用途を超え、“音楽作品”として楽しめるようになることも面白さだと思います。そういう意味では、音楽の趣味嗜好も細分化された現代で、『バニラ』は多くの人が知る貴重な音楽の一つとも言えるかもしれないです」
なんとなしに聞き流している、こうした宣伝曲。そこには新たな芸術の可能性が秘められているのかもしれない。
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