中朝会談、習近平は金正恩を米国に売るのか “北朝鮮分割”という最終手段

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 6月20、21日の両日、平壌(ピョンヤン)で中朝首脳会談が開かれた。中国・習近平国家主席は北朝鮮の暴発を抑えるのに全力をあげた。だが依然、「非核化」への道のりは遠い。韓国観察者の鈴置高史氏に「今後」を聞いた。

中国だけが報じた「忍耐心」

鈴置: 6月20日、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は習近平主席に対し「過去1年間、朝鮮は緊張緩和のために多くの積極的な措置をとってきた。しかし、関係国(米国)の反応を得ることができなかった」と、不満を訴えました。

 ただ、「朝鮮は忍耐心を維持する。関係国が朝鮮側と向かい合い、お互いの関心事を解決し半島問題が解決されることを望む」とも述べました。

 完全な非核化を要求する米国に対し、不満はあるものの対話は続けると表明したのです。習近平主席はこれを言わせたかったのでしょう。

 「忍耐心」発言は中国国営中央テレビ(CCTV)が伝えました。しかし、朝鮮中央通信など北朝鮮のメディアはこの部分を一切、報じていません。

 中国は「下手すると米朝が衝突する」と判断し、北朝鮮の暴発を抑えにかかったのです。もちろん、米国や日本が求める完全な非核化を北朝鮮が受け入れたわけではありません。あくまで応急措置です。

兵糧攻めで体制の危機

――やはり「米朝が衝突」ですか?

鈴置: 水面下では緊張が高まっていました。4月12日、金正恩委員長は施政演説で「米国との交渉期限を2019年末まで」と区切りました。

 それまでに米国が首脳会談に応じないと、やりたいようにやるからな、と凄んで見せたのです(「文在寅は金正恩の使い走り、北朝鮮のミサイル発射で韓国が食糧支援という猿芝居」参照)。

 もし、自分が設定したデッド・ラインを無視されたままなら、金正恩委員長は国内で威信を失います。首脳会談を催促してでしょう、北朝鮮は5月に2度にわたって短距離弾道ミサイルを発射しました。

 このミサイル発射に関しては、トランプ(Donald Trump)大統領は見逃してくれました。しかし、次もそういくとは限らない。北朝鮮が日本列島を越えるような中距離、長距離のミサイルを撃てば米国も確実に対抗措置をとるでしょう。

――なぜ、期限を区切ったのでしょうか。

鈴置: 経済制裁が効いて、北朝鮮の経済が日増しに苦しくなっているからです。米国は兵糧攻めにして、北朝鮮が手をあげるのを待っているのです(「文在寅は金正恩の使い走り、北朝鮮のミサイル発射で韓国が食糧支援という猿芝居」参照)

 まだ、1990年代後半のような、餓死者が続出するという事態には至っていません。しかし、先細りであることは北の国民なら皆、知っている。ことに指導層の動揺が激しく、金正恩体制を見捨てて亡命する幹部が相次いでいます。

 隣国の中国は当然、「体制の危機」と分かっている。今回の中朝首脳会談で習近平主席は「短気を起こすな」と金正恩委員長をなだめたのです。食糧援助を増やすなどの「あめ玉」をしゃぶらせたかも知れません。

マッド・マン戦略にはお手上げ

――米国も恫喝し始めましたしね。

鈴置: それが、習近平主席が訪朝した2つ目の理由だと思います。米国は北朝鮮を先制核攻撃できる戦域核の配備を終えたか、近く終えると思われます(「米国にとって北朝鮮は狂信的なカルト集団、“先制核攻撃”があり得るこれだけの根拠」参照)。

 いくら最終戦争を引き起こす戦略核ではない、と言っても戦域核だって核です。米国もまさか先制攻撃には使うまい――というのが常識でした。

 しかし、トランプ大統領は中国製品への関税攻撃やファーウェイ潰しに出ました。経済的な最終戦争を呼びかねない、誰もが予想していなかった強硬策でした。

 中国とすれば、「何をするか分からないトランプ」を前に、米国の先制核攻撃も計算に入れざるを得なくなった。

 それがマッド・マン戦略――極端な行動に出かねない姿勢を見せて譲歩させる戦略――と分かっていても。そこで、米国の先制攻撃を誘発するような北朝鮮の挑発を抑え込みにかかったのでしょう。

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