中朝会談、習近平は金正恩を米国に売るのか “北朝鮮分割”という最終手段

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「トランプを騙す」と公言

 米国側のただならぬ動きが相次いでいます。6月17日、米政府が運営する放送局、VOAが不気味な記事を流しました。

Leaked N.Korean Document Shows Internal Policy Against Denuclearization」で、「VOAが入手した文書によると、金正恩委員長が核を手放すつもりはないことが分かった」と断じたのです。

 VOAは翌18日には「<特ダネ>金正恩『米朝会談目的は核保有国の認定』…ハノイ会談を前に軍部に核開発を指示」(韓国語版)で、証拠となる文書の写真を報じました。以下が前文です。

・金正恩委員長が(2019年2月の)第2回米朝首脳会談を前に、核戦力強化を(軍に文書で)指示したことが確認された。
・トランプ大統領と最後の「核談判」をするつもりであり、「世界的な核戦力国家」としての認定を受けるのが目的だと明かした。「非核化」との内容は一切ない。

 この文書は2018年11月に朝鮮労働出版社が対外秘として出版し、大隊級以上の単位で学習用に使われたとされます。共同通信も6月17日、北京発で同じニュース(「金正恩氏、核手放さずと強調か 軍幹部に、韓国は慎重」)を流しました。中国で出回っているのでしょう。

保証人のいない金正恩

――北朝鮮に非核化するつもりなど全くない、ということですね。

鈴置: その通りです。この文書には偽書説もあります。しかしそうであっても、中国の危機感は収まらない。米政府の運営するVOAが「金正恩に非核化の意思がないことが判明した」と報じたのです。

 米政府が「米国を騙して核を持とうとする国は許さないぞ」と宣言したのと同じです。VOAは5月23日に「米国は北朝鮮を先制核攻撃できる体制を整えている」と脅したばかりです(「米国が北朝鮮を先制攻撃するなら核を使うか? その時、韓国は? 読者の疑問に答える」参照)。

 常識から考えても、金正恩委員長が核を手放す可能性はゼロに近い。非核化した瞬間に攻撃されると考えるのが普通です。リビアのカダフィ大佐も核を手放して身を滅ぼしました。

――米国は「安全の保証」をしたのでは?

鈴置: 2018年6月の第1回目の首脳会談で合意した「米朝共同声明」も「非核化の見返りにトランプ大統領は北朝鮮の安全を保証する」と謳っています。

 でも、それが難しい。金正恩委員長は「安全の保証」を誰に担保してもらえるのでしょうか。頼れる国がないのです(『米韓同盟消滅』第1章第3節「北朝鮮は誰の核の傘に頼るのか」参照)。

 中国にしろ、ロシアにしろ、「緩衝地帯」としての北朝鮮は必要です。しかし、それが「金正恩の北朝鮮」である必要はどこにもない。

 むしろ、「非核化」のどさくさにまぎれ「危険な政権」を、問題を起こさず自分の言うことをよく聞く政権にすげ替えたい、というのが本音でしょう。

米国の顔色をうかがう中国

――確かに、「金正恩体制」である必要はない……。

鈴置: ことに中国にとって、金正恩委員長は小憎らしい存在です。金正日(キム・ジョンイル)総書記の後釜にと中国が匿っていた金正男(キム・ジョンナム)氏は北朝鮮によって暗殺された。金正男氏の後見人とも言われ、中国と近かった張成沢(チャン・ソンテク)氏も処刑された。

 2人は金正恩委員長の異母兄と義理のおじです。委員長は「中国は機会さえあれば身内を使って自分を排除するに違いない」と警戒していたのです。

 今回、習近平主席を招請したのは米国の圧迫をはねのけるテコにしたかったからでしょう。でも、習近平主席がどんなににこやかに笑ってみせようと、金正恩委員長は心を許せません。それは習近平主席も同じです。

――中国は金正恩委員長を米国に売る、というのですか?

鈴置: その通りです。米国に経済戦争を仕掛けられ、中国自身が生きるか死ぬかの瀬戸際なのです。米国の顔色を見ることに汲々としています。一部の専門家が主張する「北朝鮮とスクラムを組んで米国に当たる」といった余裕はありません。

 米国のある安保専門家は2013年、日本のカウンターパートに「あと10年、我慢しよう。少子高齢化で中国経済は自壊を始めるからだ」と言い切りました。

 中国の人口統計はいい加減なので正確なことは言えませんが、生産年齢人口の割合はそろそろピークアウトするか、しました。今後、中国は経済の縮みに直面し、政治的にも不安定な時期に突入するでしょう。

 中国は、本気になって北朝鮮に非核化を要求する。それに失敗したら政権交代を実現する――という2段構えで対すると思います。いずれにせよ、米国に恩は売れるのです。それにより、少しでも自分に対する風当たりが弱まれば、との思いでしょう。

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