「久世福商店」は5年で全国73店舗 創業者が語る“食のセレクトショップ”誕生秘話

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経営逼迫に「これを使ってください」

久世:そのため経営状態も悪化。ある時、「これを使って下さい」と言って500万円を出してくれた社員がいました。経理担当だったので、会社の状況を知っていたんですね。ありがたいやら申し訳ないやら……。そのうち援助して下さるという方が現れて、何とか助かりました。また、サンクゼールは中国や東南アジアなど海外へも出店していたのですが、そこで言われたのが「なんで日本の企業なのに、醤油とか味噌といった純日本のものがないのか」と言うことでした。ちょうどその頃です……。

――11年3月11日、東日本大震災が起こり、中国ではどういうわけか長野県産の食品もすべて輸入禁止となった。

久世:当時、中国には10店舗ありましたが、反日運動も始まり、社員にも危害が及ぶ可能性もあって引き上げることに。私はといえば、ちょうど“クールジャパン”のムーブメントが起こっていたので、「サンクゼール」を東南アジアに進出させようと12年末にシンガポールの食品展示会へ出展していたので、現地へ行っていたんです。すると、「ヨーロッパのマネみたいなものではなく、日本人なら、日本の酒、醤油、味噌などを紹介して欲しい」と言われたんです。日本にいたら気が付かないことでしたね。その夜の内にホテルでまとめたのが“久世福プロジェクト”です。全国にある歴史ある企業とタイアップした、うまいものセレクトショップの企画です。帰国後、役員会にかけると反対は出ませんでしたね。みんな、そろそろ日本食に向かおうという意識があったんだと思います。

――ちょうど中国から引き上げてきたスタッフが、「久世福商店」スタッフとなった。

久世:なんだかタイミングがよかったですね。中国で反日運動がなかったら、人が足りなかったでしょう。目標とした2000アイテムを集めるにはチーム作りが必要でしたから。卸しだけでなく実店舗でやっていこうと思ったのは、販促だけでは資金力のある大メーカーには敵わないからです。直営店なら勝機はあると思い、「久世福商店」が生まれました。スーパーなどに置かれる大量生産の商品でなく、多少割高ではあっても、日本全国のいい物を探し出して紹介しようと。

――日本には地元の人でしか知らない食文化がまだまだあるという。そこを「久世福商店」の2人(現在は5人)のバイヤーが直接訪ねて発掘していった。

久世:たとえば、「島根県隠岐諸島産 天然わかめと海藻スープ」は現地の天然わかめを使っています。市場に出回るわかめは国産の天然物はわずか1%程、99%は養殖物や海外産です。600円以上するわかめスープは確かに高いかもしれませんが、そこにはちゃんと理由があるんです。

――13年12月にイオンモール幕張新都心店に第1号店をオープンすると、翌14年には13店舗、15年に13店舗、16年には23店舗と次々と出店して18年末には73店舗となる。

久世:当初は1年に3店舗くらいずつ直営店を増やそうと思っていたのですが、幕張店の反響が大きく、次々とオファーが舞い込みました。それに各地で契約しているメーカー様もある程度のまとまった数量の注文がなければ信用してくれません。そのため無理は承知で、一気に展開することを決めました。ただ、一気に行くとはいっても、資金的にも、人員的にも我々だけではどうしようもありません。現在、4割は直営ですが、6割はフランチャイズです。

――現在、「久世福商店」で扱う品はおよそ1500アイテムという。

久世:食材の旬もありますから、常に全商品があるわけではありません。現地生産で、大手メーカーほどの生産力もありませんから、売り切れになって入荷待ちのこともあります。でも、まだまだ、私どもが知らない、おいしいものはあるはずです。各地に講演会に赴いたり、奈良県とパートナーシップ協定を結んだりしていますが、そうすると先方から新しい商品のお話しも頂けるようになりました。「久世福商店」の客層は30代~60代の女性がメインですが、おいしいものにこだわりのある男性のお客様も来て頂いてます。また手土産などのギフトとして購入して下さる方も多いですね。

――昨年、後を継いだ良太社長は就任直後に、店舗拡大路線を見直すことを宣言した。会長とは経営の考え方が違うのでは?

久世:もちろん、承知しています。イケイケドンドンのままですと、ひずみが生まれてくるものですから。店員の教育もなおざりになっていたところもある。見直すことは必要だと思っています。ただ、海外進出の夢は今も消えていません。アメリカでは農地と工場を買い取り「飲むお酢」「ブルーベリーコンポート」「トラディショナルリッチジャム」「パスタソース」などの製造を始め、「KUZE FUKU&SONS」というブランドで、米国内のスーパーマーケットなどのコーナー展開やEC 事業をスタートさせました。

――ところで、家出までなさった奥様は現状に対してどう思われているのか?

久世:「口先ばかりのオオカミ少年と結婚した」と思っていたみたいなんですけど、最近は「見直した!」と言ってくれています。上から目線なんですけど、今は満足していただいているようです。

週刊新潮WEB取材班

2019年3月29日掲載

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