『もっと言ってはいけない』著者が予見する「働き方改革」の残酷な未来

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日本郵便で「画期的」判決

 正規と非正規が日本にしかない「身分差別」だという不都合な事実は当時の民主党政権も認識していて、2013年の改正労働契約法(20条)に「不合理な労働条件の禁止」を盛り込んだ。これは「差別とは、証拠によって合理的に説明できないこと」というグローバルな(世界標準の)リベラリズムに則っている。

 男性と女性の営業職がいたとして、給料に倍の差があったとしてもこれだけでは差別とはいえない。もし前者が後者の2倍の営業成績をあげているのなら、給料のちがいは合理的に説明できる。こうした「合理的」な部分をすべて調整したうえで、それでも残ったちがいが「差別」とされる。

 この基準に照らすと、日本の雇用制度には合理的に説明できないことが多すぎるが、裁判所は法改正後も、日本的雇用慣行を否定する判決に躊躇していた。ところが、どのような待遇格差が不合理かを例示したガイドラインを安倍政権が公表したことで潮目が変わった。

 2017年9月、東京地裁は日本郵便に対し、正社員と同じ仕事をしているにもかかわらず、年末年始手当や住宅手当、病気休暇などに格差があるのは不合理だとして損害賠償を認めた。18年12月には東京高裁がこの判決を追認したばかりか、二つの手当について「正社員の6割・8割」とした地裁の判断を修正して、非正規社員に全額の手当を支払うよう命じた。

 東京地裁の「画期的」判決を受けて日本郵政グループ労働組合は、非正規社員の待遇改善として年末年始手当を新設する代わりに、約5千人の正社員に支給していた住宅手当の廃止を受け入れた。今後は支給額の10%を毎年減らし、10年間の経過措置のあとに全廃するという。

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