『もっと言ってはいけない』著者が予見する「働き方改革」の残酷な未来

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「正社員という身分」を守るための組織

 同一労働同一賃金を実現するのなら、非正規の待遇を正社員と同じに引き上げればいいだけだ。労働組合が「正社員の待遇下げ」を容認したのは、これまで正社員が享受していた恩恵を維持したまま非正規の待遇を上げると経営が成り立たないからだろう。ここには、「正社員の既得権を維持するために非正規から搾取する」日本型雇用の本質がよく表われている。

 こうした経緯からわかるように、国際的にはリベラルな労働政策である同一労働同一賃金を主導したのは「立憲主義を踏みにじる」安倍政権で、裁判所の判決が改革を後押しした。「リベラル」なはずの労働組合は、その後追いをしているだけだ。なぜこんな情けないことになるかというと、日本の労働組合が「正社員という身分」を守るためだけの組織だからだ。

 連合はこれまで「同一労働同一賃金は日本の雇用慣行に馴染まない」として、「同一価値労働同一賃金」を主張してきた。正社員と非正規では労働の「価値」がちがうのだから、待遇格差は正当化できるのだという。これがいかにグロテスクな論理かは、「白人と黒人では労働の価値がちがう」と言い換えればわかる。――さすがに連合幹部もそれに気づいたらしく、安倍首相の施政方針演説以降、この「差別表現」はなかったことにされたようだ。

※参考文献:有斐閣『解雇規制を問い直す―金銭解決の制度設計』(大内伸哉/川口大司 編著)

(2)につづく

橘玲(たちばな・あきら)
作家。1959年生まれ。『80's』『朝日ぎらい』などのノンフィクション作品とともに、小説も手掛ける。新書大賞2017受賞の『言ってはいけない』に続く最新刊『もっと言ってはいけない』もベストセラーに。

週刊新潮 2019年2月7日号掲載

特別読物「『もっと言ってはいけない』著者が予見する 『働き方改革』の残酷な未来」より

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