日本アカデミー賞「カメ止め!」主演の濱津隆之、所属事務所決定“さらばバイト生活”

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

Advertisement

自己顕示欲のない役者

 これまでのインタビューからもお分かりだろうが、濱津は非常に低姿勢で、極めて常識的な人間だ。演劇人といえば、下北沢の居酒屋で大酒を飲み、議論を戦わせながら暴れる、というイメージは未だに根強いが、その対極に位置する。

 そのため「カメ止め!」の大ヒットでテレビのバラエティ番組から注目を浴びたものの、出演が実現しなかったケースもあったという。

「スタッフの方々からメールで仕事の打診をいただくと、必ず『何のエピソードもありませんが、大丈夫でしょうか?』と相談していました。『大丈夫です』との返信で前取材になるんですが、スタッフの方が『本当に面白い話がないんですね』と呆れられて、出演の話が立ち消えになったこともありました」

 バイト先では真面目に勤務し、たとえ舞台の稽古や出演で忙しくとも、必ず月に十数万の収入あった。浪費とは無縁の性格だから、金銭面で苦労したことはない。音楽だけは出費を惜しまないが、自分の身の丈に合った金額だ。

 実に真っ当で常識的な生活だ。破天荒な要素は皆無。何しろ「カメ止め!」が大ヒットしていても、ラブホテルの清掃のバイトは続けていた。辞めたのは昨年の秋。興行収入が30億を超えた昨年末でも、クリスマスイブは自宅でゆっくりとビールを飲んでいた。

 一方、上田監督は時の人となり、濱津が演じた映画監督「日暮隆之」の娘「日暮真央」役の真魚(27)は数十社の芸能事務所がスカウト合戦を繰り広げ、昨年9月にワタナベエンターティメントの所属が決まった。

 日暮の妻を演じた、しゅはまはるみ(44)は昨年12月1日、エイベックス・マネジメントに、「ゾンビチャンネル」のプロデューサーを演じたどんぐり(58)も吉本興業から映画24区に移籍を果たした。

 周囲が順調に“ステップ・アップ”していく中、濱津は全く取沙汰されず、完全な無風状態だった。だが本人は「焦りも嫉妬もなかったです」と振り返る。

「『カメ止め!』は実質6月の公開で、それから非常にめまぐるしい半年を過ごしました。次から次へ『まさかこんなことが』と驚くことばかりで、自分の所属事務所について考える余裕すらなかったんです」

 だが、しばらくすると、「アニモプロデュースという芸能事務所が関心を持っているらしい」と、人づてに知らされた。

 アニモは映画「ハリー・ポッター・シリーズ」の主人公、ハリー・ポッターの吹き替えや、テレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」で主人公ジョルノ・ジョバァーナを演じる小野賢章(29)が所属することでも知られている。

「アニモの社長さんが、『カメ止め!』をご覧になって、僕に興味を持っている、ということを周囲から教えてもらいました。そして最終的には、『あなたの連絡先をアニモに教えていいか』と打診があり、僕が『お願いします』と答えると、去年の12月、社長にお目にかかることになりました。その時点で、お世話になることは直感的に決めていました。社長が熱意を持ってくださっていることが分かりましたし、ご縁を大切にしたいと思ったんです」

 ずっとフリーでやってきた。事務所に所属すると、どう日常が変わるのかさえ想像がつかないという。

「自分の人間関係では届かない映画会社やテレビ局、劇団といった方々に僕の名前を伝えてくださるはずなので、非常にプラスになることは間違いないと思っています。何が変わるのかということも含めて、今、とても楽しみな気持ちでいっぱいですね」

 遂に濱津も“無風状態”を脱しつつある。「カメ止め!」最後の“刺客”として、今年は台風の目になるのかもしれない。

 だが、たとえ売れっ子になったとしても、彼の謙虚な性格が変わることはないだろう。何しろプロの俳優でありながら、「自己顕示欲はありません」と断言する男なのだ。

「自分の演技を、そのまま観客の皆さんに見てもらおうという意識は乏しいと思っています。映画でもテレビでも舞台でも、まずは最初に作品があって、その作品を観客の皆さんに届けるため、自分はどう動けばいいかと考えるんです」

 ご存知の通り、役者でも芸人でもミュージシャンでも、芸能界に住む人間は誰でも強烈な自己顕示欲と個性を持っている。だが、濱津は極めて控え目で、常識的で、目立ったところのない男だ。「公務員のよう」と形容してもおかしくない。

 だからこそ芸能界では一周して、稀有なキャラクターとなる。今年「平凡な男」がどこまで花を咲かせるか、まさに見物と言えるだろう。

週刊新潮WEB取材班

2019年2月1日掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。