ヒッタイト帝国から現代中国まで 国家の栄枯盛衰の鍵を握る「鉄の魔力」

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「鉄は国家なり」とはドイツ帝国宰相のビスマルクの言葉だが、紀元前15世紀ごろにヒッタイト人が鉄を用いて強力な帝国を築いて以来、「鉄」は国家の命運を握る重要な材料であり続けてきた。

 近代以降、「鉄」の生産量1位の国はイギリス、ドイツ、アメリカ、日本と受け継がれ、現在は中国が世界で圧倒的なシェアを握ると聞けば、ビスマルクの言葉はいまだに有効なように思える。

 サイエンスライターの佐藤健太郎氏も、近著『世界史を変えた新素材』の中で、歴史上に登場したさまざまな新素材の中でも、鉄こそが「文明を作った〈材料の王〉」との見方を示している。

「ヒッタイト人は鋼鉄製の強力な兵器によって小アジアの覇権国となりました。ただ、じつはヒッタイト人が初めて鉄を使ったというのは、正確ではありません。それ以前から、鉄は世界各地で作られていたのですが、それらは軟らかく、刃物や建材には不向きだったのです」

「ヒッタイト人が発見したのは、鉄を木炭の中で熱することで、硬く強靭な鋼鉄を得る技術でした。といっても、単に鉄と木炭を加熱すれば硬い鋼ができるというほど簡単ではありません。鉄を熔かすには高温の炎が必要であり、酸素を絶えず送り込んで高火力を保たねばならない。また、炭素の含有量が多すぎれば、鉄はもろくなって叩くと割れてしまう。ヒッタイト人が開発したのは、これらの条件をコントロールして優れた鋼鉄を生み出す技術でした」

 ヒッタイト人はその強さの源泉である鋼鉄の製法をひた隠しにしたが、その帝国を長続きさせることはできず、紀元前1190年頃までに滅亡している。

 なぜヒッタイト帝国は滅亡してしまったのか? 立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんの著書『全世界史』には、「BC1200年のカタストロフ」説が紹介されている。

「BC1200年代の終わり近く、突然の嵐のように大規模な民族移動が東地中海を襲いました。彼らは『海の民』と総称されていますが、その言語系統や民族は不明です。海の民はヒッタイトを滅ぼし、ギリシャのミケーネ文明を破壊し、さらに地中海を東に進んで現在のシリアにあった大都市国家ウガリトも滅ぼします。これを『BC1200年のカタストロフ(破局)』と呼んでいます」

 ヒッタイト滅亡から3200年経った今、中国が世界の粗鋼生産量のほぼ半分という圧倒的なシェアを誇る。しかしその一方で、深刻な環境破壊や、生産過剰による危機もささやかれている。「材料の王」を制した中国は、このままアメリカを追い落とし、世界の覇権国になれるのだろうか。あるいは、ヒッタイトのようなカタストロフを迎えるのだろうか。

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 11月23日(金・祝)18時から、東京・八重洲ブックセンター本店で、サイエンスライターの佐藤健太郎さんと、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんの2人が、世界史を変えてきた材料についてトークイベントを行う。
詳細はhttps://www.bookbang.jp/article/560532

デイリー新潮編集部

2018年11月16日掲載