風疹よりも怖い寄生虫「トキソプラズマ」母子感染 “生肉”“土いじり”に注意、治療薬は

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保険適用の治療薬

 同じころ、治療薬の開発が動き出していた。厚労省の医薬品審査管理課の担当者に訊ねると、

「2011年、日本産科婦人科学会から、先天性トキソプラズマ症のための薬の承認に関する要望がありました。省内で年4回開催される『医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議』にかかり、製薬会社に開発要請を出すことが決まったのです。会議では“疾病の重篤性”と“医療上の有用性”という条件をクリアする必要があるのですが、前者は胎児の後遺症の重篤性が、後者は、海外の多くの国で標準療法として使われている点が認められました」

 日本では1967年以来、アセチルスピラマイシンという薬が使われてきたが、

「現場の医師の自己責任で処方されていましたし、患者の方も全額自己負担でした。風疹はワクチンがあって広く認知されているのに対し、トキソプラズマは知名度が低い。感染予防も、おのおのが気をつけるしかなかったのです」

 それだけに開発が待ち望まれた。開発要請を受けた製薬会社「サノフィ」の担当者は、こう話す。

「製造販売に向けて2014年から動き出し、今年9月、日本国内での『スピラマイシン』の保険適用が実現しました。スピラマイシンは先天性トキソプラズマ症の発症を抑制する効果があります。母親の胎内のトキソプラズマ原虫の増殖を阻害することによって、胎児への感染を食い止めるのです。原虫は新しく細胞のタンパクを合成することで増殖するのですが、その合成を止めるわけです」

 これには、先の渡邊さんも、「大きな前進だと思います」と目を細める。

「スピラマイシンが処方できることで、“トキソプラズマの検査をしておきましょう。もし感染していても、薬がありますから”と、医師の側から妊婦に検査を勧めやすくなります。検査も、ブライダルチェックに組み入れられればいいですね」

 埼玉県ふじみ野市にあるミューズレディスクリニックの小島俊行院長も、

「感染経路は、私の研究によれば、レアな肉の次に土いじり、そして猫のフンなどから感染という順になるかと思います。それらに注意しさえすれば、もし検査で陽性となっても、医師は胸を張って“これはトキソプラズマ症の治療薬なんですよ”と処方できます」

 ちなみに、スピラマイシンは1錠約224円。1回2錠、1日3回服用。出産まで続ければいい。もちろんこれからは保険も利く。

 これで、トキソプラズマ症の危険性が風疹ぐらいに周知されれば、言うことはない。

「妊婦さんは特に、やみくもに恐れるのではなく、正しい知識をもって正しく恐れてください」(先の渡邊さん)

週刊新潮 2018年11月1日号掲載

特集「日本人4千万人が感染! 『自殺率1.5倍!』という寄生虫『トキソプラズマ』の知られざる恐怖」より

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