風疹よりも怖い寄生虫「トキソプラズマ」母子感染 “生肉”“土いじり”に注意、治療薬は

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水頭症の診断

 健康体の人であればほとんどが無症状であることは先にも触れた。そして肝心の、妊婦の場合。

「妊娠中に初めて感染すると、胎盤を通じ胎児に感染する可能性があります。胎児への感染が早い時期であれば死産や流産、遅い時期だと、水頭症や脳内石灰化、精神面での障害、視覚障害をもって生まれることがある。これを“先天性トキソプラズマ症”と呼びます。胎児にとって致命的な症状となって現れますし、お母さんの精神的な苦痛も計り知れません。日本での発症率は1万出生につき1人とされ、近年は毎年100万ほどの出生ですから、100人前後が先天性トキソプラズマ症に罹患して生まれてくる計算になります」

 こうした重篤な母子感染は、「TORCH(トーチ)症候群」と称される。TとR以外の説明は別の機会に譲るが、Tはトキソプラズマ、Rは風疹ウイルスの頭文字だ。風疹の母子感染でも、難聴や心疾患、精神や身体の発達遅滞などを引き起こすことがある。風疹などがワクチン接種で予防できることは以前から知られていたが、

「私が出産した2011年ごろには、トキソプラズマが危険だということすら知られていませんでした」

 と、症候群の名を冠した「トーチの会」の渡邊智美代表が言う。

「病気自体は知っていました。でも猫から感染するものに過ぎない、と考えていたのです。私の場合、妊娠のお祝いで知人らと食べたユッケとレバ刺しが感染源だと思っています。妊娠20週目を過ぎ、思い出作りに撮った4D写真で娘の脳室拡大が確認されました。その時点では私にその事実は伝えられず、31週で受けた検診で水頭症の診断を聞かされたのです」

 渡邊さんの順調な妊娠生活が暗転した。

「転院先の先生から“胎児の容態がいつ急変してもおかしくない”と言われ、すぐに入院しました。当時、トキソプラズマ症の治療薬は保険適用外。一時退院して薬を買わねばならず、大変な思いをしました。その後、胎児MRIで脳内所見を見たところ、水頭症だけでなく、脳のあちこちに出血があり脳内石灰化も起きていたのです。そうなると、経膣出産では頭部に圧力がかかってさらに出血するおそれがあるので、38週目に帝王切開で出産しました」

 娘に、先天性トキソプラズマ症と確定診断がおりた。渡邊さんは感染予防の大切さを呼びかけようと、「トーチの会」を作ったのである。

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